前向きに捉えて活路を見出せ

この未曾有の不況より以前に、暗く長いトンネルに陥っているのが建設業界だ。公共事業の大幅な縮小、談合廃止などで、業務縮小はもとより業態の変化も求められてきた。ある業界関係者は説明する。

「近年、だぶついた技術者が営業に回されるようになりました。今の営業マンは、現場の専門知識や金融など、幅広い知識が求められています」

Aさん(54歳)も技術者から事務職に配転した一人だ。1977年、都立大学工学部建築学科を卒業後、中堅ゼネコンに入社。本社で1年間勤務した後、名古屋支店に配属となり、現場の施工管理や設計に関するセクションで働いた。83年には横浜の研究所に転勤。免震技術の開発プロジェクトなどに関わるなど、技術畑一筋のサラリーマンだった。

だが2002年、開発した技術を社内外に正しく伝える「技術広報」として“白羽の矢”が立てられ、初めて技術畑から事務畑へ異動。当時の心境をAさんは、

「抵抗感はあった」

と語る。しかし、開発した技術の素晴らしさをいかに正確に相手にわかってもらえるか工夫するうちに、楽しくなっていったという。

成功のカギは、やはり仕事に対する取り組み方、気の持ちようなのだ。前出の小林さんは、いざ自分が配転、異動になったときの心構えを次のように助言する。

「全部を否定せずポジティブに考えるのが大切です。たとえば、技術者が営業に回るのは、ある意味チャンスでもある。本来、技術者にも周りのニーズを汲み取る営業的センスが求められるからです」

自分に足りなかった要素を補える絶好の機会だと捉えることが重要だと言うのだ。さらに、残業禁止などで時間が余れば、個人として勉強するなど、新たなスキルアップに繋げられると考えることが必要だと語る。ただし、油断は禁物だ。

「ちょっとした遅刻や、やる気のない態度など、些細なことを理由に隙あらばリストラという事態になりかねません。こういう時代だからこそ、脇を締めて前向きに取り組むことが求められています」

Aさんも自らの経験を振り返り、次のようなエールを送る。

「今いるところが最高なんだと思うこと。そこでどんな仕事ができるか、能動的に考えることが大切ではないでしょうか」

お仕着せの仕事は誰でも嫌なもの。ならば、自分から進んで飛び込んで楽しむ。直面した苦境を乗り切るのは、そういった気構え、発想の転換なのである。