喫煙が重篤化の重要なファクターであるなら、喫煙率の高い国の死亡者数は多くなるはずだ。ところがベトナムの死者ゼロをはじめ、概して喫煙率の高いアジア圏は死者が少なく、死者の多い欧米は喫煙率が低い。むしろ肥満率や薄毛率の高さと死亡者数のほうが合致している。

なぜ、欧米とアジアで、これほど死亡率が違うのか。順天堂大学医学部で免疫診断学の講座を持つ松岡周二特任准教授に聞いた。松岡氏はイタリアで死者数が急増したとき、医療費削減が原因という指摘が多かったなかで、早くからHLA(ヒト白血球抗原)が関係するかもしれないと唱えてきた。

「HLAは簡単にいえば免疫を担当する白血球の血液型で、型は1万数千種類あるといわれています。最初は臓器移植の成否を決定する遺伝子として発見されました。HLAの型の種類が多いのは、体内に侵入してくるさまざまなバクテリアやウイルスに対応したためと考えられています。

人種間でHLAの型が大きく異なるのは、周囲に存在するバクテリアやウイルスが異なるためです。これほど新型コロナの死者数に差があるのは、おそらく免疫に関係するでしょうから、HLAが関わっていると推測できるのです」

山中伸弥京都大学教授らが指摘するファクターXのひとつとして注目されるようになったHLAだが、致死率の違いはコロナウイルスの型が異なるのが原因という説も有力。まだまだ新型コロナはわかっていないことが多いと松岡氏は言う。専門家の「コロナウイルスは高温多湿に弱い。暖かくなれば感染は収まる」という予想も外れた。

「最近は感染者数よりも重症・死亡者数がポイントという声が大きいのですが、感染が広がれば死者数は確実に増えます。また、高齢者に比べ若者は重症化しないといわれていますが、若者でも後遺症が残るという報告もあります。アジア人だから安心、若いから大丈夫と油断しないで、感染防止策はしっかりしてください」(松岡氏)

わからないことが多いと不安になる。過剰な防衛本能が働き、こいつのせいに違いないと犯人を決めつけ、攻撃する傾向が人間にはある。そして、私は我慢しているのにあの人はズルしているという被害者意識。本人は正しいと信じているだけにやっかいだ。

根拠のある数字を示し、丁寧に説明し、納得してもらうこと

働く人、住む人、ショップやレストランに遊びに来る人など、多様な人が集う場所ともなれば混乱も起きやすいのではないか。六本木ヒルズなどを運営する森ビルでは「ヒルズみんなのルール」を決めた。

「緊急事態宣言が出て、それまでもみなさん個々に感染対策はとられていたのですが、みんなで守り合わなければ感染拡大を防ぐことは難しいため、フィジカルディスタンスをとり、マスクをして、手洗い消毒を徹底することを、街を利用する人々の共通ルールとして定めました。4月、5月と議論して6月11日にポスターを掲示するなど運用開始しました」(広報室・落合有氏)

例えば密を避けるためにエレベーターは何人乗りにすればいいのか。単に人数を少なくすれば、逆に待つ人がエレベーターホールに溢れ、密になってしまう。そこで、設計時の資料を確認し、テナントの出社率が何%の場合、何人乗りにしたら待ち時間は何分……とシミュレーションを繰り返し、安全で快適に使える人数を割り出し、基準を定めたという。

六本木ヒルズのエレベーターは8人乗り。フットプリントで人数だけでなく、互いに向かい合わないような工夫も。
撮影=遠藤成
六本木ヒルズのエレベーターは8人乗り。フットプリントで人数だけでなく、互いに向かい合わないような工夫も。