コロナ禍でEC事業は急伸したが…

百貨店売り上げが前年同期から71%、SCや駅ビルの売り上げが40%も落ち込む中、ECは50%伸びて全社売り上げの45%に達した。コロナパンデミックでライフスタイルも購買行動も激変し、百貨店や商業施設の一斉休業で店舗売り上げが激減したという特殊事情とはいえ、まだ何年もかかるとみていた「半分はECで売る」という目標がほぼ実現してしまったのだ。

とはいえ、オンワードのEC体制は規模ほどに盤石ではない。18年段階でオンワード樫山単体の自社EC比率は85%と高く、コロナ危機下の20年3~5月期では単体で94.8%、全体でも90.0%に達したが、システム改修からささげ(採寸・撮影・原稿書き)まで外注比率が高く、自社ECではあっても自社運営とは言い切れないところが残る。今期はEC売上500億円を計画し、中期的には1000億円を目指して「メーカー機能を持ったデジタル流通企業」と謳うには心許ない。

百貨店顧客の取り込みも一巡し、さらにEC売り上げを伸ばすには異なる顧客層に広げる必要があったし、ECのシステムにもフルフィルにも通じたZOZOと提携すれば自社EC体制の整備も進むと期待したのではないか。

退店のきっかけ「ZOZOARIGATO」は終了

コロナ危機がいつまで続くのか誰も読めないが、アフター・コロナではなくウィズ・コロナとなってライフスタイルも購買行動も元には戻らない公算が極めて高い。コロナ危機で高まったECの勢いを継続するには店舗からECへ転じる会員数を増やし続ける必要があるが、17年の160万人から18年は28%増の204万人、19年は30%増の265万人と増やしてきた会員数が20年は18.3%増の313万人と、百貨店からECに転じる顧客も一巡しつつあった。保守的な高齢層に偏る百貨店客の取り込みだけでは頭打ちは目に見えており、衣料消費に積極的な若い世代の取り込みが急務となっていた。

そこに持ち込まれたのが「ZOZOTOWN」への復帰であり、827万人(20年3月期第4四半期)というZOZOの若い会員層はオンワードがEC顧客を広げるのに不可欠と思われた。離反の契機となった会員制割引サービス「ZOZOARIGATO」は導入後、半年で終了し、導入した前澤友作前社長もすでに会社を去っているから、復帰に何の問題もなかった。