働きながら親を介護する41歳ひとりっ子の胸の内
父親は自分の両親や弟に、事あるごとに母親や母親の両親、姉妹の悪口を言ってきた。父親の弟も兄の性格は熟知しており、認知症になるまではなるべく関わらないようにしていたようだが、最近は兄嫁を気遣うような言動に変わりつつある。
このようなたくさんの問題を抱えた父親に、工藤さんはどのように育てられたのか。
「こんな父でも、腹立たしい出来事と同じくらい、楽しい思い出もあります。子どものころは本当にいろいろなところに連れて行ってもらいました。ザリガニを捕まえたり、竹でパチンコを作って遊んだり。父には他の父親ではできないようなモノ作りの特技があり、作り方を教えてもらいながら一緒に遊んだ記憶があります」
ただし勉強面では、宿題を見てもらえば、これ見よがしにため息をついたり、ヒステリックに怒ったりするのでいつも号泣。「俺の子ならできる! ダメなら妻の家系に怠け者が多いからだ!」という発言を聞かされ続け、萎縮した子どもになってしまったという。
「むき出しの憎悪や嫌悪感を込めた母への当たり散らし方を見るにつれ、父への介護意欲がそがれます。認知症だから仕方がないかもしれませんが、介護される側に当事者意識がないのはしんどいですね……」
自分の貯金を取り崩して介護している
工藤さんは、平日は帰宅後、父親の薬の服用、検温、お風呂へのうながしなどを担当。両親の通院時は仕事を休んで対応し、週末は足が悪い母親の代わりに買い物や用事を済ませている。
「シングル介護は、一人の殻に閉じこもらないようにすることが重要で、自分が家族を介護しているということを、周囲の人に発信できる状態のほうが何かとスムーズです。また、ケアマネをはじめ、介護に関わる人たちと積極的に接点を持つこと。介護開始当初は実感がわきませんでしたが、進んで会話することによって、父に対して普段から気をつけておくべきことが自然と頭に留まるようになりました」
普段からコミュニケーションをとっておいたおかげで、父親が近隣の人に母親の悪口を言いふらしていたことが、すぐに工藤さんの耳に入った。
「幸い、父はまだ食事や排泄、入浴が自分でできているのでよいですが、今後認知症が進んだら、母のためにも施設への入所を考えています。入所の費用は、退職金はありませんし、年金ではギリギリだと思うので、私の貯蓄を切り崩すことになると思います。2~3年スパンである程度の想定はしておかないとまずいと感じていますが、先のことを考えると正直不安ですね……」
介護で最も重要な資産は、「自分の心身の健康」という工藤さん。現在、時間の大半を両親のために使ってしまっているため、「本当は、仕事の勉強や趣味をする時間がほしいんですけどね」と苦笑いしながらため息をついた。