韓国経済の大黒柱サムスンの行く末

現在の韓国経済の状況を一言で表現するならば、サムスン電子の半導体事業によって、経済全体が支えられているというべきだ。それは、サムスン電子と他の企業の業績動向を確認するとよくわかる。

今年4~6月期、サムスン電子の営業利益は23%増加した(速報ベース)。増益を支えたのが半導体事業だ。巣ごもり需要やテレワークの増加が、同社の半導体メモリの需要を押し上げた。

また、地域別に見た収益状況の詳細は公表されていないものの、中国からの需要がサムスン電子の半導体事業の業績拡大を支えた可能性は高い。米中対立が先鋭化する中で中国は半導体の在庫確保を急いでいる。他方、半導体以外のサムスン電子の事業は苦戦したようだ。スマートフォン事業は世界各国での都市封鎖や移動制限の影響から出荷台数が減少したとみられる。

サムスン電子以外の韓国企業の業況を確認すると、かなり厳しい。韓国の輸出動向を見ると、半導体以外の品目は総崩れというべき状況だ。新型コロナショックの影響によって世界全体で貿易取引が減少した影響は非常に大きい。

産業のすそ野が広い自動車業界では、現代(ヒュンダイ)自動車をはじめ各社の生産台数が落ち込んだ。世界の家電市場などで存在感を示してきたLG電子も苦戦している。4~6月期、LG電子の営業利益は前年同期比で24%減少した(速報ベース)。

現在の韓国経済でサムスン電子以外に、高額の付加価値を創出し、景気の低迷を食い止められる企業はほとんど見当たらない。政府系シンクタンクである韓国開発研究院は、新型コロナウイルスの感染拡大が続いているために外需の回復が進まず、韓国経済が縮小していると悲観的な見方を示している。

その状況下、サムスン電子の半導体事業の収益が増加するか、あるいは伸び悩むかは、韓国経済に一段と大きな影響を与えることが予想される。

中国向け半導体提供に圧力をかける米国

中長期的に考えた場合、サムスン電子の半導体事業がこれまでのような成長を維持できるかは見通しづらい。その理由の1つに、米中対立の先鋭化がある。今後の世界経済をけん引するIT先端分野を中心に、米中は覇権国の座を争っている。5月、米国は中国のIT覇権を阻止するために、ファーウェイへの禁輸措置を強化した。

台湾がそれにいち早く対応した。台湾は米国に安全保障を依存し、中国との関係が不安定化している。台湾の半導体受託製造大手TSMCは、ファーウェイからの新規受注を止めた。

5月までにTSMCがファーウェイから受注した半導体は、9月半ばまでは通常通りに出荷可能とみられる。それ以降は、出荷のために米国の許可を得なければならず、事実上出荷できない。

TSMCは収益の22%を占める中国から距離をとり、56%の収益を生み出している米国の需要獲得に注力することを選択した。同社はアリゾナ州に120億ドル(約1兆2800億円)規模の工場を建設する計画であり、米国での受託製造シェア獲得に動いている。

韓国も台湾と同様に安全保障を米国に依存している。冷静に考えると、韓国は安全保障を固めるために米国との同盟関係を維持・強化しなければならない。

米国は台湾に続いて韓国にも中国への半導体供給を絶たせたい。トランプ大統領は9月のG7サミットに韓国を招待し、米国の陣営に加わるよう踏み絵を踏ませたい。また、ビーガン米国務副長官が訪韓した目的には、文政権の対北融和姿勢にくぎを刺すことに加え、同盟国として韓国が米国の陣営にしっかりと加わり、対中包囲網の形成に貢献するよう求める狙いがあるだろう。

米国から韓国への圧力が強まる中、サムスン電子が中国への半導体輸出を続け、業績拡大を目指すことができるか否かはわからなくなっている。それは、サムスン電子が中国の半導体需要を取り込んで業績を拡大し、それによって経済の安定と成長を遂げてきた韓国にとって無視できないリスクだ。