たとえば「会社のなかで頼りにされる人事部になる」という理想像が掲げられたら、「どんな問い合わせがあっても、人事部員が同じ内容の答えを返せるようにする」といったゴールの設定が考えられる。すると「それを実現すれば、自分たちの評価が高まる」というゴール達成の利点が得られる。そして「先輩から引き継いだ際のメモがマニュアル代わりになって、問い合わせがあったときに役立っている。人事部全員のノウハウや知恵を持ちよって、その内容を充実させて共有化したらどうか」という方法が浮かんでくる。
このように「人は問題を解決するために実行可能な方法をすでに持っている」という考え方を、心理学の世界では「解決志向アプローチ」という。しかし、私たちは何か問題に直面すると、真っ先にその原因を探ろうとする。それを「問題志向アプローチ」というが、当事者の心のなかに「自分の責任が問われるのでは」という不安が生まれ、原因究明を難しくしてしまう恐れがある。また、原因究明そのものが「問題を解決できない理由探し」へと転化して、チーム全体のモチベーションダウンにつながってしまう可能性も高い。
だから解決志向アプローチでは「解決について知るほうが、問題の原因を探ることよりも有用である」というスタンスを貫く。それなら当事者も前向きな姿勢になれる。また、当事者だからこそわかる問題の解決方法の意見を表明しやすくなる。それゆえリチーミングでは、互いの可能性を信じ、全員の存在を肯定する。そこに問題解決だけでなく、チーム再構築のメカニズムが組み込まれているのだ。
そうやって問題解決の具体的な方法が見出せれば、「マニュアル化で余裕のできた時間を、管理職研修の改善を検討するのに使おう」などといった、成長した自分の姿を想像することも自ずとできていく。しかし、実際に問題解決に向かって行動していくと、さまざまな壁にぶち当たるはず。そこで最終段階では、それらを想定しながらメンバー各自に自信をつけさせる。
「あなたは人の話を聞くのがとても上手だから、悩み事のよき相談役を果たしてくれると思うよ」「この前のプロジェクトは予想以上の成功を収めたのだから、今回も必ずできるはず」などと、思いつくかぎり相手の長所を話し合う。そんな“心の花束”を交換しながら、おのおの自信を深めていく。そして、最後に「私はこれをやります」と皆の前で宣言をし、実際の行動に移していくわけである。
10以降のステップについてはアフターフォローの過程だと考えればいいだろう。なお、サポーターはさまざまな場面で励ましや支援を与えてくれる人のこと。三谷産業の研修のケースでは、大所高所の立場から的確な助言を常日頃から行っている中川常務が、そうしたサポーターの一人であった。