【大前】日本の公的債務は個人の貯蓄によってファイナンスされていますが、これに国民のコンセンサスがあるわけではありません。日本の銀行はほとんどが一時国有化された状態でしたので、国民の貯蓄で国債をファイナンスするのは、いわば一種の強制的な仕組みであるともいえる。15年ほど前に公的資金が注入されたこともあって、政府の意向を無視する金融機関は存在しない。日本の金融機関は常に政府の顔色をうかがっている状態です。預金者には雀の涙ほどの金利しか払ってないくせに、郵便貯金についていえば、日本郵政のトップに就任した旧大蔵省の元事務次官である斎藤次郎氏は、政府の意向に対して従順な姿勢を貫いて、国債を買い増しています。

確かに公的債務を購入する資金が続く限りは何とかなるでしょう。しかし利用できる貯蓄は、あと160兆円しか残っていない。仮に政府が毎年40兆円を食い潰せば、財政的にやり繰りできるのはあと4年という計算になります。日本の債務問題が出口のないトンネルだとわかったら、アービトラージャー(情報格差を利用して利ざやを稼ぐ業者)は空売りなどの手段で国家に襲いかかってくる。そうした事態がいつ起こっても不思議ではない時期にきていると思います。

個人のインテリジェンスを計測する指標であるIQに対して、集団のインテリジェンスを表す「集団IQ」というものがあるとすれば、日本の「集団IQ」は幻想にとらわれ、思考力が麻痺した状態にあるのではないかと私は思います。現実から目を逸らせば破滅にまっしぐらです。

(小川 剛=構成 林 昌宏=編集協力 大沢尚芳=撮影)