「以上です」は大切な数学コトバ

私は企業研修や大学の講義において、参加者に説明やプレゼンテーションを要求することがよくあります。そこで気づくのは、多くの人が「自分の話が終わった」という事実を聞き手に伝えないことです。

第1章で紹介した数学コトバには含めませんでしたが、数学では「以上です」や「証明終わり」といったコトバもよく使います。読んで字の如ごとく「お伝えするべきことはもうありません」という意味です。

このコトバは、聞き手に対してある方向づけをします。

「私の話を聞く時間はこれで終えましょう」という方向づけです。このコトバがなかったら、聞き手は話が終わったのか、まだ続くのかどうかを判断できません。

伝える側:「以上です」

伝えられる側:「ああ、この話は終わったんだな」

伝える側:実際に話を終える動作をする(黙る、着席する、など)

伝えられる側:理解

こんな経験をしたことはありませんか。

会議などである人が発言し、発言がいったん終わります。その直後、話が完全に終わったのか、まだ続くのか、どちらだろう? という「空気」が流れるという経験です。ほんの数秒間ですが、微妙な雰囲気になるものです。

そんな空気が流れる理由はたったひとつ。発言者が「以上です」というコトバを発しないからです。

「そんな細かいこと、どうでもいいじゃないか」と笑わないでください。私は教育現場で、必ず最後に「以上です」と言うように指導しています。

きちんとコトバで方向づけをしなさいということです。

できるコンサルの話の終え方

ここで、ある経営コンサルタントのことを思い出しました。

深沢真太郎『数学的に考える力をつける本』(三笠書房)
深沢真太郎『数学的に考える力をつける本』(三笠書房)

以前、各分野で活躍するトップランナーがディスカッションをする場に参加させていただいたことがあります。テレビなどにコメンテーターとして出演している人や、有名な著作者などもたくさんいました。

その中に、私から見てきわめて数学的に思考し、伝える経営コンサルタントの人がいました。聞けば外資系コンサルティングファームで徹底的に鍛えられたとか。数学にも大変興味があったそうです。

この人も、数学コトバをきちんと使って伝え、発言の最後には必ず「以上です」と言ってマイクを置く人物でした。この人の説明がきわめてシャープであり、かつわかりやすかったこともつけ加えておきます。

そう言えば、カーナビも最後に必ず「目的地周辺です。案内を終了します」とアナウンスしていますね。

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