「マイナンバー一本化」は縦割り行政にとって不都合

一方で、総務省はマイナンバーを銀行口座と「紐付け」ることを義務化する方針を打ち出した。マイナンバーを一つの口座に紐付けることで、災害時の給付金などが迅速に振り込まれるようにする、というのだ。

これも「便利さ」を前面に出しているが、日々資金の出入りがある口座をマイナンバーに紐付ければ、それこそ財布の出入りが国に把握されることになりかねない。総務相の方針を聞いて「衣の下によろいが見えた」と思った国民は少なくないだろう。

国からの給付を受ける口座をマイナンバーと紐付けるならば、非常時の話を持ち出すよりも、年金受給などの口座と一体化する方が、より国民に理解されそうだが、なぜか、霞が関はそういう動きにならない。

なぜか。答えは簡単で、縦割り行政だからだ。年金や健康保険を扱うのは厚生労働省で、マイナンバーは総務省。税金の「納税者番号」は財務省国税庁の管轄だ。番号をマイナンバーに一本化し、管理するというのは、自分たちの省庁の権益を総務省に渡すに等しい。つまり、自分たちだけが使う固有の番号を握ることで、仕事と権限を抱え込んでいるわけだ。

だから、「紐付け」るという議論は出ても、番号を一本化しようという話にはならない。それでは国民からみて便利な番号にはならず、カードも普及しない。

省庁再編だけは受け入れられない霞が関

かねてから、国民からの納税収入を扱う「国税庁」と、国民からの社会保険料を徴収する「厚生労働省の関連部局」を一体化して、「歳入庁」を設置すべきだ、という議論がある。国民からの「入り」を一本化し、社会保障サービスの「出」と一体管理すれば、行政は効率化する。だが、これには、財務省も厚生労働省も反対だ。マイナンバーを一本化すれば、自ずから省庁を再編することになるが、それは何としても受け入れられないというのが霞が関の論理だ。

というのも、霞が関の省庁は、未だに役所別に人材採用を行っている。人事も基本的に省庁内だけで、人事権は一部の高級幹部を除いて各省庁が握っている。「省益あって国益なし」と言われて久しいが、マイナンバーが本気で利用されないのは、総務省だけが旗を振っているからに他ならない。

では、どうすれば、その霞が関の構造を打ち破れるか。横割りで政府のデジタル化を進める「司令塔」が必要だ。台湾では閣僚級の「デジタル担当政務委員」に天才プログラマーと言われるオードリー・タン(唐鳳)氏を抜擢し、政府のデジタル化に強力な権限を与えた。今回の新型コロナウイルス蔓延でも様々なデジタルツールを開発・普及させ、新型コロナの感染拡大を未然に防いだ。