現職での業績だけが根拠でいいのか

しかし、ある人を昇進させるための明確な根拠が「現職での業績」しかない場合、希望的観測によって「彼なら大丈夫。立派に部長の仕事ができる」という具合に考えて昇進させていないでしょうか。

これではいわゆる「ピーターの法則」に陥ってしまいます。

この法則は、「人はその能力の限界まで組織内で昇進するとすれば、どこかの段階で自己の能力では全うできないポジションに就き、限界を迎える。その限界を迎えたポジションでは業績を挙げられないので、無能者として評価され、それ以上昇進できずそのポジションに滞留する。やがて組織はその職責を全うできない無能者で満たされる」というものです。

「ピーターの法則」がもたらす残念な状況

このピーターの法則は、50年以上前に南カリフォルニア大学の教授であるローレンス・ピーターによって提唱されました。大変有名な法則であり、この法則に陥らないための対策まで研究されているにもかかわらず、実に多くの企業がピーターの法則で指摘された残念な状況になっています。

田口力『クロトンビル 世界最高のリーダーを育てる組織』(KADOKAWA)

ピーターの法則に陥らないようにするための対策は、次のポジションに求められる心構えや能力を昇進前に開発し、スキルとして発揮できることを確認してから昇進させることです。そのほうが本人にとっても組織にとっても幸福なことなのではないでしょうか。

ところが多くの企業では相変わらず、昇進・昇格後に昇格時研修を行っています。そうした研修の講師をしていますと、管理職や経営幹部不適格者が一定の比率で混じっており、背筋が寒くなる思いをすることがあります。

考課者研修など、昇格後に必要な研修も当然あります。しかし、そうした研修と、ここで言っている研修とでは中身や目的が全く異なります。

また、昇進・昇格前に研修をするだけではなく、次のポジションで必要とされる能力を発揮できているかどうか、確認するためのプロセスも構築する必要があります。

もちろんこの確認プロセスにおいて管理職不適格とわかれば、専門職として活躍し続けてもらうという選択肢も用意すべきです。いったん管理職に登用した後に、管理職不適格であるとわかったからといって、その職務を解くためには相当の労力と時間を要しますし、本人と組織に対してダメージを与えることになります。