政府規制とコロナで手に入りにくい

日本でも知られている通り、中国ではネット通販が非常に盛んだ。毎年11月11日に盛大に行われる「独身の日」セールだけでなく、日常的に何でもネットで購入するという人が非常に多い。日本人と違い「国産品」よりも欧米や日本製品を求める傾向も強い。

ボールペンやアイシャドー、シャンプーに至るまで「国産ではなく日本製がいい」という人までいる。ボールペンならインクの出方やグリップ部分など細部の品質が日本製は段違いですばらしいし、シャンプーも日本製だと髪が傷まないという人もいる。これらはコロナ以前、2015年の「爆買いブーム」の頃からずっと続いている傾向なので、コロナによって急に考え方が変わったというわけではない。だが、コロナによって「安心・安全」を求める意識はより高まったといえるだろう。

中国のネット通販で買えないものは、以前は日本に住む中国人に「代理購入」を頼んだりすることもあったが、「代理購入」は2019年1月から本国で実名登録をしなければならないなど中国政府の規制がかかり、トーンダウンした。それに3月以降、新型コロナの影響で、郵便局から中国に発送するEMS(国際スピード郵便)が停止されているため、日本製品は以前よりも手に入りにくくなった。そうした影響もあり、余計に「日本に行って自分で買い物したい!」という欲求は高まっているようだ。

口コミで広がる「コト消費」は健在

だが、いろいろ話を聞いていくと、「日本に行きたい理由は買い物だけではない」という声が多かった。それは「(中国みたいに)人が密集していない静かなところでのんびりすること」や「(中国にはまだ少ない)最高級の焼き肉レストランに行くこと」など、いわゆる日本ならではの“コト消費”に関連することだった。

「爆買い」後、中国人の海外旅行はモノ消費からコト消費へと移行した、と日本でも報道された。それは現在もずっと続いており、今回の取材の際も「箱根の温泉の露天風呂に入ってのんびり入りたい」、「北海道の大自然でサイクリングして、そのあとジンギスカンやお寿司をたくさん食べたい」、「阿蘇の牧場に行って、草原で牛乳を飲みたい」といった「モノ」以外の話をする人が多かった。冒頭の上海の女性も「沖縄にまた行って、何度か行った土産物店のおばあちゃんの顔を見たい」と話していた。

具体的に行ってみたい場所は千差万別で「この県のこの場所が人気ナンバーワンだ」というランキング的なことはいえないが、それぞれが過去に体験した日本旅行からもう一度行ってみたいところや、以前からSNSで見て、行ってみたかったところを挙げていた。中国人は旅行サイトよりも、自分が信頼する友人や知人のクチコミを信じるため、「コロナが収束したら、同僚の○○さんが以前行ってよかったというあそこにぜひ行きたい」という具体的な希望を持っているのだ。