日本政府ではない別の権力によって秩序が保たれている街
「(みんなが)言うほど危険じゃないよ。普段はなにもない。みんな金のために集まってるんだから」
私も歌舞伎町に出入りして、もう30年になる。編集アルバイトの時代から歌舞伎町のサウナの世話になって28年、入稿の合間や徹夜明けには必ず歌舞伎町のサウナで雑魚寝だったが何をされた記憶もない。日本政府ではない別の権力によって秩序が保たれている、それが歌舞伎町だ。いつぞやの歌舞伎町浄化作戦など余計な混乱をもたらしただけだった。学生さんがつぶやく
「金欲しい。イケメンだったらホストやるのに」
ホストは容姿だけじゃないこと、私の知る某ホストクラブのナンバー2は小太りのおっさんだったことを告げると面白がってくれた。ただ学生がホストをやると中退してしまう人が多いので、やめといたほうがいいとも諭しておいた。彼は「冗談だよ」と笑った。危険地帯のコンビニバイト、そんな社会勉強くらいがいいだろう。男子学生が稼ごうと思うと意外と実入りのいいバイト先は少ない。
ホスト「コロナより店のが怖い」
彼と別れるとひとまず歌舞伎町の2つ星ホテルに入った。そのホテル、コロナの影響で客は1割も埋まっていないという。真新しくきれいで案内板も多国語対応、インバウンド目当てもあったのだろう。こんな一等地のホテルがタイミングもあるとはいえ一泊3000円とは。これだけ安いともう行きつけのサウナに用はない。
やはり私の取り越し苦労か(昨日夜には片づいていた)、ちょうど「終わった」のか、ホテルから戻ってみれば歌舞伎町は静かなものだった。風林会館の前にいたホストの男の子に聞いてみる。ぶっきらぼうに「終わったんじゃね」とのこと。警戒していないところをみると本当に終わったようだ。もう片づいた。目的が終われば撤収も早い。みんな慣れっこだ。怖くなかったかと聞いたが「別に」と一言。こうしてなんでもなかった人がいるのも歌舞伎町の面白さ。若い頃の私のように。
コロナどうよ? と話をそちらに向けてみるが、興味なさそうに携帯とにらめっこ。
「よくわかんね。ホスト誰も死んでないし」
確かにホストが死んだという話は聞かない。クラスターが発生だの、陽性が何十人だのという話はあるが、若いからか無自覚な者がほとんどで、死亡者どころか重傷者もいない。キャッチ狩り、スカウト狩りの被害者のほうが多そうだ。
「コロナより店のほうが怖えーよ」