あなたは診察を受けて“がん”と診断された場合、どのように対応するだろうか。「一刻も早く治療を始めたい」のが患者の思いではなかろうか――。

その思いに応え、「無治療期間」を徹底して短くし、がんの進行を抑えようとしている施設がある。昭和大学歯科病院口腔外科がそれである。

舌がんを含めた口の中のがん、口腔がんは歯科での定期検診で発見されるケースが非常に多い。それだけ、歯のチェックを年に何度か受ける人が増えているのである。

一般的な口腔外科では、舌がんなど口腔がんの疑いで紹介された患者に対し、診察を行ってやはり口腔がんの疑いがあると、組織の一部を採取する「生検」を行う。その後、病理診断を行い、がんか否かの結果が出るのに1週間。患者は何もしないで一週間待たされる。もちろん、がんであればその間にもがん細胞は増殖している。進行がんであれば転移が進んでいくかもしれない。

「生検の結果をいつ知りたいか?」「結果判明後、治療はいつから始めたいか?」、全国約1300人に行ったアンケート調査結果がある。

生検の結果は、「生検を行った日に知りたい」人が34%、「2、3日中に知りたい」人が39%。当日、もしくは2、3日中に知りたい人が73%にものぼった。では、治療は――。結果判明から「1週間以内に始めてほしい」人が85%。やはり患者の多くは迅速な対応を求めているのである。

その声に応えて、昭和大学歯科病院口腔外科では「術中迅速病理診断」を導入。通常は、生検で病巣から採取した組織をホルマリンに浸し、パラフィンで固めて切片を作って病理診断を行うので時間がかかる。同口腔外科では、採取した組織を液体窒素で凍結させるため、すぐに切片が作られ、迅速に病理診断できる。診断結果は生検の翌日に患者に伝えられる。

一般的には舌がんなど口腔がんの結果を受けると、画像診断を行って治療計画をたてる。手術室の空き状況、入院ベッドの確保などもあり、治療開始までに早くとも2週間はかかってしまう。

そのような時間をも同口腔外科は無駄にしない。生検時にがんが強く疑われる場合には、採血も同時に行っておき、その血液で抗がん剤「TS-1」の適応を調べておく。抗がん剤の感受性があれば、診断がついた時点から抗がん剤治療をスタートする。

抗がん剤「TS-1」は2週間経口投与し、1週間休む。画像診断も抗がん剤を服用しながら進めていく。

このシステムであれば、迅速病理診断と同時に治療がスタートできるので無治療期間がない。そして、抗がん剤服用3週間後に患者の状態に最も適した治療、「手術」「放射線療法」「化学療法」などが選択されて行われる。

【生活習慣のワンポイント】

歯科健診を年に2~4回程度受ける人が増えている。これが虫歯や歯周病チェックのみならず、舌がんを含めた口腔がんチェックにも結びついている。

加えて、歯磨きを行うときに、月に1、2度は口腔がんの自己チェックを行い、早期発見に努めてほしい。

●腫れ物、シコリがないかを注意して見る。

●入れ歯や補綴物(ほてつぶつ)が刺激して、治りにくい傷になっているところはないか。

●粘膜のただれや、赤くなっているところはないか。

●口内炎と間違えやすい潰瘍などはできていないか。

●こすってもとれない白い部分ができていないか。

●口の中の舌、口腔底(舌にかくれた部分)、歯肉をより慎重にチェックする。「口の中は鏡で見ればわかるし、違和感があればすぐにわかる」と安易に考えるのは危険である。