年間の罹患者数4万人と推定されている前立腺がん。“50歳を超えたらPSA検査を!”が男性諸氏の間での合言葉となってきた。

前立腺は男性だけにある臓器で、精液の一部である前立腺液を分泌している。膀胱の出口で尿道を包むようにあり、大きさはクルミくらいである。

その前立腺にできる前立腺がんの発見のために、まず行われる検査が「PSA(前立腺特異抗原)検査」。前立腺がんの腫瘍マーカー検査で、血液を採って調べる。PSAは前立腺だけがつくるたんぱく質で、健康な人の血液中にも少量存在しているが、がん細胞があると増加する。

PSAの血中濃度は4ng/ml未満が正常で、4~10がグレーゾーン、10以上が異常値とされている。ただ、がんがあっても高い数値を示さないことがあるし、異常値であるにもかかわらず前立腺肥大症などの良性疾患のケースもある。的確なチェックが必要で、最終的には「前立腺生検」で診断がつく。

前立腺がんと診断されると、そのがんの状態に応じて「外科(手術)療法」「放射線療法」「ホルモン(内分泌)療法」「化学療法」が行われる。おとなしくて小さな段階のがんに対しては「能動的経過観察(PSA監視療法)」も行われている。

根治的手術療法として、今、最も注目されているのが「ロボット支援前立腺全摘除術」。手術ロボット「ダヴィンチ」を使ったロボット支援手術で、アメリカでは前立腺がん手術の85%がこの方法で行われている。日本でも現実的にスタートを切った。

ロボット支援手術では、ロボットを操作する術者は手術台のそばに設置された操作機器の前で3D画面を見ながら指先と足でロボットアームを動かし、切開、凝固など緻密な手術を進めていく。ロボットのアームは4本で、人間の指先以上に器用に動き、感覚的な操作が可能。まさに人間以上に確実な手術が可能になったと評価されている。

前立腺がんの手術というと、これまでの基本は「開腹手術」「腹腔鏡手術」。そこに加わったのがロボット支援手術である。それぞれ長所、短所が指摘されている。

開腹手術は、他の臓器の手術でもそうだが、手術時間が短いのが最大の長所。その一方で、入院期間が長い、出血量や合併症の発生が多いのが短所。加えて、大きな傷が残るのも患者にとっては辛い。

腹腔鏡手術は、入院期間が短く、出血量も少ない。傷は刺し傷しか残らず、数年でわからなくなるのが長所。短所は手術時間が長く、合併症発生が多く、そして手術が難しいこと。

ロボット支援手術は、手術時間は2つの手術の中間で、入院期間が短く、刺し傷しか残らないのは腹腔鏡手術並み。ところが、出血量の少なさ、合併症の少なさは群を抜き、大きな長所となっている。そのため、アメリカでは日帰り手術で前立腺がんに対応している施設もある。

日本でダヴィンチを導入している施設は、2010年9月時点で、東京医科大学病院、金沢大学病院、九州大学病院など13施設に増えた。前立腺がんに対して最も多くロボット支援手術を行っているのは、東京医科大学病院である。

【生活習慣のワンポイント】

日本人男性に前立腺がんが増加した大きな理由は、肉を中心とした高脂肪食になったからと指摘されている。事実、動物実験では高脂肪食を与えたグループのほうが、低脂肪食を与えたグループよりも、移植したヒト前立腺がん細胞の増殖が速かった。さらに、PSA値も高かったのである。

そこで、1日の野菜摂取量を多くした食生活に改善しよう。1日最低350グラム以上の野菜を摂取し、そのうち3分の1を緑黄色野菜にする。たんぱく質は牛・豚・鶏肉、魚などバランスよく摂取する。できれば多少魚を多くしよう。