これまでの悲劇的な設定とは違う新しい作品

これまで韓国ドラマや韓国映画の中で描かれてきた北朝鮮は、韓国の人々を始め、日本人から見ても一定のイメージの範囲内にとどまっていた。

日本でもよく知られる、南北を描いた韓国映画といえば、「シュリ」「JSA」、「シルミド」などがある。これらは南北の悲恋や友情も描いてはいるものの、スパイや諜報、暗殺といった生々しいシーンが多かった。脱北者を描いた映画「クロッシング」では北での生活ぶりは描かれてはいるが、困窮した場面が多く、目を覆いたくなるシーンが多い。

いずれも南北の分断による悲劇が主要なテーマとなっており、見ているだけでつらくなってくるが、この「愛の不時着」にはそうした悲壮感はあまり多くない。むしろ感じるのは南北の体制の違いよりも、北の一般庶民も同じように愛すべき人間なのだ、という点だ。

そもそも韓国の女性が北朝鮮に不時着するという設定に「ついていけない」と思う読者もいるかもしれない。だが、今、私たちを取り巻く世界は、新型コロナウイルスの感染拡大という、誰も想定していなかった事態に直面している。このコロナ禍での鬱屈うっくつとした生活の中で、このドラマが「もしかしたら、こういうことも起きるかも……」と思えるような内容だからこそ、ハマる人が続出し、希望を見いだしているのではないかと思う。

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