デマに法的な責任を問えるのか

このようなデマに巻き込まれてしまったのは小池さんだけではない。ニュースを検索しただけでも、各地で「店員に感染者が出たらしい」「感染者があの店を利用したらしい」というデマを流されたというニュースを確認することができる。たとえば大きく報じられた4月に愛知県で起きたスポーツ用品店経営者のケースでは、「経営者がコロナで死んだ」という根拠のない情報が流されてしまった。同店ではデマの打ち消しに奔走したものの、一時休業を余儀なくされたと伝えられている。

また非常時のデマやフェイクニュースのやっかいな点は、悪意によるものだけでなく、「知らせなくちゃ!」という使命感で情報が回されるケースがあることだ。だがいくら「そんなつもりはなかった」としても、デマは損失を与えるばかりか他人の名誉も傷つけ、ときに人命を脅かする刃になりうる。また偽の情報の打消しのためには人的・金銭的なコストがかかり、さらに長期戦になることが予想されるだろう。被害者の負担はあまりにも大きい。

そんなデマやフェイクニュースの被害に対して法的な責任を問うことはできないのだろうか。弁護士に聞いた。

語り手:弁護士法人サリュ 籔之内寛弁護士
「近時、新型コロナウイルスの蔓延により2mのソーシャルディスタンスを保つことが求められておりますが、インターネットが普及した現代においては、たとえ距離が遠く離れていても、SNS等で突然悪意あるデマを流されて事業者が経済的な損失を負ったり、名誉を傷つけられたりすることはあります。その場合に、加害者に対して刑事、民事の責任を問えるかという点についてお答えします」

Q.デマを流した人物に刑事責任を問うことは可能か?

A.刑事責任については、不特定多数の人が知りうる状態でデマを流されたことにより、客観的に見たときに社会的な評価を下げる具体的な事実が示されていると判断された場合には名誉毀損罪が成立することになります。

また、デマを流したことにより経済的な面での信用を低下させた場合には、信用毀損罪が成立することになります。更に、デマを流したことにより営業が妨害した場合には、偽計業務妨害罪が成立する可能性もあります。

Q.これらの罪が成立した場合、刑罰はどうなるのか?

A.裁判で名誉毀損罪が成立すると判断された場合には、加害者には3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科されます。

信用毀損罪、偽計業務妨害罪が成立するすると加害者には3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。当然ですが、いずれの犯罪についても執行猶予が付くことはあります。

Q.民事で争う場合、その流れとポイントは?

A.まず、刑事で名誉毀損罪が成立するようなケースであれば、名誉毀損をされたこと自体に対する慰謝料の請求ができます。ただし、名誉毀損をされたことに対する慰謝料は一般的に想像される金額よりも相当低い金額です。数十万円しか認められない事案も多いです。アメリカの慰謝料の金額とはレベルが違いますね。

更に、デマを流されたことによって売上が下がったことに関する賠償の話について説明します。これは、記事に載せるのも憚られるのですが、正直なところ非常に難しいです。

というのも、そもそも売上が下がっているのは外出自粛のせいではないか、デマに関係なく売上が下がっているのではないかといった話が出てきます。損害賠償を請求する際に立証責任を負うのは被害を負った側です。デマを流されたことと売上低下の因果関係を立証していかなければいけません。

そのため、例えば飲食店で予約がキャンセルされた場合などであれば、デマが原因で予約がキャンセルされたという証拠を可能な限り残しておくことが重要です。

なお、SNSなどで匿名でデマを流された場合でも、発信者を特定することが可能な場合もあります。プロバイダ責任制限法4条に基づいて裁判所を通じて情報開示請求をすることができるからです。出所不明の噂話に比べたらインターネット上の書込みの方が加害者の特定可能性は高いですね。デマを確認したら弁護士に早急に相談するのがいいでしょう。

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