どれも日本で新型コロナへの不安が顕著になってから流れた根拠のないデマだ。だが、この情報がSNSやクチコミで広がるとスーパーでは納豆が売り切れ、フリマアプリでは何てことのないただの石の出品が確認されている。また、2月頃にTwitterで拡散された「トイレットペーパーが品薄になる」というデマは、実際に、トイレットペーパーを含む紙製品が全国的に品薄になる事態を招くきっかけとなった。
こういった出所不明の不確かな情報は、トイレットペーパーの買い占めのように私たちの生活に影響するだけではない。ときに個人の名誉を傷つけたり、差別につながることもあるのだ。ある日、突然、「感染した」と名指しで噂を立てられたら、あなたはどう思うだろうか? 「感染者が出た」というデマを流された自営業の男性に話を聞いた。
ある日、「コロナに感染した」とデマを流された
コロナ感染のデマに巻き込まれてしまったのは、中部地方でクリーニング店を営む小池さん(仮名)だ。4月以降、小池さんの店は売上が下がっていたが、それは感染拡大防止のための外出自粛の影響であると考えていたという。だが4月下旬のある日、取引先からこんな話を耳打ちされた。「ご家族に感染者が出たと聞いたが、本当か」。小池さんの家族に新型コロナの感染者はいない。ここで、小池さんは初めて自身がデマの渦中にいることを知った。
小池さんは「まさに寝耳に水でした。コロナに感染してはいけないと注意していましたが、デマのことは全く頭にありませんでした。まさか自分の身に降りかってくるとは」と、話す。純粋に外出自粛の影響で減ったと思っていた客足は、確認してみると取引先から「感染したというのは本当か」と聞かれた前後から急速に減っているそうだ。確証はないが、関係ないとは言い切れないタイミングだ。
中にはニヤニヤしながら「お前の店、コロナになったらしいなぁ!?」「感染者出たんか?」と、面白がるように聞いてきた人もおり、小池さんは不快な思いをしたという。
しかし、なぜ小池さん一家が噂のターゲットになってしまったのだろうか。4月、小池さんの住む地域で感染者が出たという発表はない。噂の原因も出所も全く見当がつかないという。
「可能性があるとすれば、私が日頃から『自分も感染しているかもしれないという意識で行動しよう』と言っていたことが、どこかで曲解されて伝わったとか……でも、そんなことは私以外の人もよく言っていますよね。本当にわかりません」
現在、小池さんは、問い合わせに対しては冷静に家族に感染者は出ていないという事実を伝えている。だが、店への張り紙など大々的な周知は行っていない。元々、感染を噂された家族は店には立っていないこと、また小さなコミュニティなので、まずは事を荒立てず噂の出所を探しながら対処を考えたいとしている。
「以前は外出自粛が解除されれば(売上も回復する)と希望を持っていましたが、いまは本当に元に戻るのか不安です」と話す小池さん。噂に対しては、「なぜ不確かな情報を流してしまうのか。それがどんな結果を生むのか一瞬でも考えることはできないのだろうか」と、怒りを感じるとともに、人災とも言えるデマに「ある意味、コロナ以上にやるせない」と、行き場のない思いをにじませていた。