「ヒット・アンド・アウェイ」で相手を翻弄する
実は彼女の手法は、多くのホストが使っているものとまったく同じ。まさに「プロのテクニック」です。
ホストも、初対面のお客さまにはとても親しく接し、「今日、仕事が終わったらカラオケいこうよ」「ご飯いこうよ」と、自分からアフターに誘います。最初に距離をグンと縮めて、その後も「また会いたいね」と連絡をマメにとりながら、2回目に会ったときにはサッと引く。お客さまはそのホストの気を引きたいから、指名をする……営業職の女性とまったく同じ駆け引きがホストクラブでも繰り広げられているわけです。
ちょうどボクシングの「ヒット・アンド・アウェイ」の要領です。
ぐっと近づいて、サッと離れる。それでもダメなら、また近づく。距離感を支配すれば、こちらのペースで相手を動かせます。
皮肉なことですが、営業にしても恋愛にしても、自身のテクニックが高まってくればくるほど、「この人、ただ口がうまいだけなんじゃないの……?」と思われることも増えてきます。
私自身もホストという職業柄、「女性から信用されてないなぁ」と感じることがたびたびありました。
そこで私が力を借りたのが「第三者の声」です。
同じことでも「第三者」から聞くと印象が変わる
「ウインザー効果」はご存じでしょう。
「何かの素晴らしさを本人から直接聞くより、第三者から聞いたほうが信じやすい」という人間の心理作用のことです。Amazonでも「商品紹介」より「レビュー」のほうが信じられやすいのと同じとお考えください。
私はホスト時代、ヘルプのホストに「第三者」の役をお願いしていました。
ナンバーワンを張っていたときは、1日に何人ものお客さまが私を指名してくれました。
お客さまの中には、私とともに時を過ごす「他の女性」を気にする人もいます。
「信長さんって、たくさん遊んでいるんでしょ?」「信長さんって、他にもたくさん彼女がいるんでしょ?」と疑われることもしばしばありました。
この手の質問は、本人が否定すればするほど、どんどん「疑わしさ」が醸し出てしまうものです。本当に彼女がいないのに、否定することで、何かを隠しているような雰囲気になってしまうのです。
そこで、私が席を立ったとき、ヘルプのホストに「助け船」を出してもらいました。
「信長さん、ナンバーワンホストなのにまだ寮に住んでいるんですよ」
「休みの日はいつも、寮で本ばっか読んでますよ」
「たまには遊びに出ればいいのに」
このように「第三者」であるヘルプのホストが私の「ありのまま」を伝えてくれたことで、私は信頼を得ることができたのでした。
嘘はばれます。ただし「本当に伝えたいこと」を伝える手段として、第三者の力を借りるのは決して悪い方法ではありません。