標準化に頼る教育にとって最大の問題点

脳の研究に数十年を費やし『ブレイン・ルール』(NHK出版)を執筆したジョン・メディナは、「脳が発達するペースやパターンは人それぞれで、まったく同じ道筋をたどる人はふたりといない」と言う。単純に、脳の「配線の仕方」がそれぞれ異なるのだ。

それはつまり、同じことでも人によってどう学習するかは違うということだ。学習の仕方も、学習するスピードも異なる。これは標準化に頼る教育にとって最大の問題だ。はっきりいって、「標準的な(平均的な)学習者」など存在しない。

「ネイチャー・ニューロサイエンス」誌に掲載された調査結果によると、ティーン未満の子供が問題を解こうとするとき、使用されるのはほぼ脳の海馬と前頭前皮質の2カ所のみで(この2つは短期記憶やワーキングメモリをつかさどる)、ティーンや成人になると新皮質と呼ばれる(長期記憶をつかさどる)部位に頼るようになるという。

つまり、年齢の低い子供は頼りにできる長期記憶の数が少ないため、指で数えるなど使えるものは何でも使って問題を解こうとするのだ。子供の年齢が上がって記憶の数が増えるにつれ、検索できる記憶の幅が広がる。この点に注目してもらいたい。

学習はもっとパーソナライズ化する必要がある

子供の記憶を学習に結びつけて考えようとすると、「記憶=事実を思いだすこと」ととらえがちだが、それは学習というより暗記だ。学習しているとき、人の記憶は過熱状態になる。事実だけでなく経験も思いだそうとするからだ。

経験したことの多くは長期記憶にしまい込まれていて、呼びだせばいつでも出てこられるようになっている。人は年を重ねるにつれて、意識的にせよそうでないにせよ、経験を通じて絶えず新しいことを学習している。そして、経験と経験につながりを見いだす力も向上していく。

つまり、何か新しいことに遭遇すると、脳はそれを大局的にとらえるのに役立つ記憶を夢中で探してくれるというわけだ。脳は絶えず、新たな情報とつなげられる記憶を探し求めているので、探せる記憶の数が増えるほど、新たな問題に関連づけたり、新たなアイデアを理解したりするのが容易になる。

私たちは、こうした「関連づけできる記憶」を通じてものごとを理解しようとする。この仕組みから、学んだことを人一倍簡単に理解できる人とそうでない人がいる理由も説明がつく。前者には、新たに得た情報やアイデアに関連づけできる記憶がたくさんあるのだ。ということは、学習にとっては、賢さより事前に得た経験のほうが重要だといえるのかもしれない。

こうした調査結果から教育関係者が学べることは多い。

たとえば、暗記の強要を減らして、生徒の長期記憶に保存されている情報と新たな情報を結びつける方法を探すことに注力したほうがいいのではないか。生徒に未知の何かを教える最善の方法は、生徒がすでに知っていることと関連づけることだ。

だからこそ、学習はもっとパーソナライズ化する必要がある。