感染機会や経路が特定できないと労災は難しい
以上が感染症に罹患した場合の一般論だが、果たして新型コロナウイルスによる感染症でも同じように適用されるのか。厚労省は2月3日に、都道府県労働局に向けて「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」という内部通達を出している。その中で労災対象の条件として示されたのは、以下の3つだ。
② 感染から発症までの潜伏期間や症状等に医学的な矛盾がない
③ 業務以外の感染源や感染機会が認められない
一つ目の感染機会・感染経路の特定は、千葉弁護士が解説した通り。他の二つについても同様に解説してもらった。
「新型コロナの潜伏期間は1~14日とされています。最後に出勤したのが3週間前だとすると、職場で感染したという主張とは医学的な矛盾が生じます。また、仕事の後に人が多く集まる飲食店で遊んで帰ったとすれば、本当は飲食店で感染した可能性もある。こうした場合は労災の適用が難しくなるでしょう」
3つの条件のうちハードルの高さを感じるのは、やはり「感染機会・感染経路の特定」だ。新型コロナウイルスは無症状の感染者が多く、クラスターが発生していなかったり、感染が判明した人と濃厚接触していなくても、職場で感染したりするリスクは十分にある。しかし感染機会や経路の特定ができなければ、労災の適用が難しくなってしまう。
その後の方針で「感染リスクが高い労働環境」も対象に
そうした声を受けたからか、厚労省は4月28日に新たに内部通達を出している。通達によると、医療や介護の従事者は「業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象」になる。それ以外の労働者で、感染経路が特定されていないときも、「感染リスクが相対的に高いと考えられる労働環境下で業務に従事して」、「業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合」は対象になるという。
注目したいのは、感染リスクが相対的に高い労働環境下の例として、複数の感染者が確認されたクラスター環境の他に、「顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下」が挙げられている点だ。つまりスーパーの店員のように、不特定多数と接触するがゆえに感染リスクが高く、なおかつ感染経路の特定が難しかったエッセンシャルワーカーも、労災の適用を受けやすくなったわけだ。