医療従事者は負傷、死亡すると国から補償が出る
エッセンシャルワーカーの中でも、医療従事者は新型インフルエンザ等対策特別措置法に補償の規定が明記されている。都道府県知事は、必要に応じて医師や看護師などの医療関係者に医療を行うように要請・指示できることが定められている(第31条)。事実上の強制に近いが、医療従事者から協力を得るためには補償も必要。そこであわせて、要請・指示で医療を行ったために死亡・負傷したり、疾病にかかったり、障害が残ったときに、本人や遺族に損害を補償することも定められた(同第63条)。
補償額は政令で決まっていて、例えば死亡した場合は、支給基礎額(平均賃金)の1000倍が支給される(災害救助法施行令第12条)。平均賃金は、過去3カ月の賃金総額を3カ月の日数で割ったもの。月給40万円の看護師なら、ざっと1億3000万円強が死亡時の補償額になる。もちろん「命あっての物種」ではあるものの、補償としてはそれなりに手厚い。
スーパーの店員が感染したら労災は下りる?
スーパーの店員や配達員など、その他のエッセンシャルワーカーはどうだろうか。残念ながら、新型インフルエンザ等対策特別措置法に特別な規定は設けられていない。出勤した結果、新型コロナに罹患して損害が生じれば、まずは労災保険の適用を検討することになるだろう。厚労省HPの「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」にも、「業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります」と記されている。
問題は、どのようなケースなら業務に起因したと認められるか。労務問題を数多く手掛ける千葉博弁護士に、まず感染症一般のケースで解説してもらった。
「労災は、業務災害と通勤災害の2種類があります。業務災害は業務中に感染したこと、通勤災害は通勤中に感染したことが明確になっていなければなりません。ケガはどこで発生したのかが明確になりますが、感染症は経路を明確にすることが難しい。職場で多数の感染者が出たという状況なら分かりやすいですが、そうでなければハードルは高いと考えたほうがいい。
さらに難しいのは通勤災害です。不特定多数の人が利用する電車で感染経路を明らかにするのは、極めて特殊な状況を除いて現実的ではありません。また、労災は業務や通勤に内在する危険が表面化したときに適用される保険です。通勤中に感染するくらい感染症が広く蔓延していれば、それは生活一般に内在する危険であって、通勤に内在した危険ではないという解釈が成り立ちます。通勤中に普通のインフルエンザにかかっても一般に労災の適用にならないのも、そのためです」