▼齋藤さんからのアドバイス

数字やデータを見せるとき、もっともやってはいけないのが、表などの外部資料をそのまま貼り付けることです。表やグラフは、その読み取り方自体が試験問題として出題されるケースもあるように、読んで消化するためには頭を使う必要があります。その手間を省きたいから、上司は部下に資料の作成を依頼するのです。それにもかかわらず生のデータをそのまま見せてしまうのは、上司の要求を理解していないことと同義といえます。

表やグラフを使うときは、何より求められている「利益」を意識することが重要です。その文章で問題になっている利益は何で、その利益に対して数字はどのような意味を持ち、どのような意思決定につながっていくのか。そこに関わる数字以外は不要です。必要のない部分はばっさりと切り落としたり、小さくする工夫が大切でしょう。

では、必要な部分はどうやって見せればいいのか。一般的な文章では、文章と表やグラフを別にして、文章で必要な部分を説明するパターンが多いようです。新聞でもアンケート調査などを紹介するときは、データを別記して文章で数字を解説しています。

しかし、私は必ずしもそれがよいとは思いません。ビジネスでも、文章のほかに表やグラフが別紙で添付されている文書が少なくありませんが、ページをめくるのが面倒で、けっきょくは目を通さないケースがほとんどです。

補足的なデータなら別紙添付でも構いませんが、重要なデータであれば、ビジュアルにひと工夫が必要です。たとえば表やグラフの必要な部分を丸で囲み、そこから線を引いて、数字の意味やそこから導かれる結論を、吹き出しのような形で書いてもいい。

文章とデータを別に考える必要はありません。むしろうまく融合させることに、ビジネスマンとしての文書センスが問われるといっていいでしょう。

明治大学教授●齋藤 孝


1960年、静岡県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書多数。近著に『坐る力』『1分で大切なことを伝える技術』『若いうちに読みたい太宰治』など。
(村上 敬=構成 相澤 正=撮影)