定期は解約、現預金をすぐ使える状態にする

「コスト」も「利益」ももちろん大事だが、コロナ騒ぎのように会社にとって経営環境が悪化した時に一番大事なのは、「資金に万全の対策をとる」ことである。このことが、社長にとってまず一番にやらなくてはならないことである。要は、目の前の資金を潤沢にすることだ。

一倉先生は先の『経営心得』の中で、次のように説いている。

<景気下降期に入った時、まず手を打たなければならないのは、資金対策である。>(146ページ)これは資金ショートを絶対にしないように、社長として万全を期せということである。

それも一刻も早く、誰よりも先に手を打つことである。

社長にまず言いたいことは、「わが社はお金があるんだ」という場合にも、「ウチはあまりお金がないんだよね」という場合にも、手元にある現預金がすぐ使える状態にすることである。どんなにお金があっても、すぐ使えるようにしておくことがとても重要なのである。

そのために定期預金は解約して、普通預金にしておくこと。できたら取引のある銀行ではない別の金融機関の口座に入れておくのが安心である。万が一、銀行が会社の資金をブロックしてしまうと、社長は会社のお金といえども自由に使えなくなることもあるからだ。

また、ウチは融資枠を「○○○円」持っているから大丈夫といっている社長もいるが、状況が急変すればどんなに融資枠を決めていても銀行が融資に応じないことは実際にある。

「いくらなんでも、そんなことはないだろう」と話す社長がいるが、1990年のバブル崩壊から私たちは何回も、間接的に、直接的に痛い目に遭ってきた。その時に、次の教訓を心に刻んだはずだ。

それは、「社員、幹部、専務といえども、社長は会社の命ともいえる資金の手当てを人に任せてはいけない」ということである。

3.11後に倒産した会社が伝える教訓

ここで少し不幸な事例を話すことにする。普段はあまり話したくない事例だが、私たちが置かれた状況が状況なので、あえてである。かなり、強烈な事実である。

ある会社がつなぎの融資のため、とある都銀の支店と交渉を重ねていた。そして、やっとのこと金曜日に、支店の担当者、支店長からOKをもらい、「決まりました。翌週月曜日に振込ます」との連絡があったのである。

金曜日に連絡があったので、「何とかつながった!」と安堵の表情を浮かべた社長は、土日も久々に晴れやかな気分でいた。「月曜日に入金を確認後、何とか支払いができる」と思っていた。

そして、翌週の月曜日。その社長は朝から入金の連絡を今か今かと待っていた。しかし、その日の午後になっても入金は確認できなかった。そこで、社長は意を決し、支店担当者に電話を入れた。

すると、担当者はそっけない声で、「本店からストップがかかったので振り込みができませんでした」の一言。社長が電話するまで、支店担当者からは何の連絡もなかった。この社長の会社は最後の最後に銀行から融資が下りなかったために倒産になった。2011年の3.11の後のことである。

この事があってからは、より一層、私は社長の皆さんに交渉などは社員に任せてよいが、最後の最後、自社の口座にお金が振り込まれるまでは、どんなことがあっても手を抜いてはならないとの話をしている。