スワップ協定締結を持ち掛ける姿勢に変化はない

文政権は、感染拡大の抑制にある程度成功しており、韓国国内でも一定の評価を受けていました。つまり、その時点で、革新系与党である「共に民主党(ともにみんしゅとう)」の勝利は堅く、日本に頭を下げてまで、文政権は通貨スワップ協定の締結にこぎ着ける緊急性はないと判断したのでしょう。

また、ウォンの大幅下落に対しても、米国FRBとのスワップ協定にはこぎ着けており、いったんは日韓通貨スワップの議論は終息の模様を見せています。ただし、韓国でのドル不足状態は変わりなく、大量の外貨をドルで供給してくれそうな日本に対して、通貨スワップ協定の締結を持ち掛ける姿勢に変わりはなさそうです。

この日韓通貨スワップ協定についてですが、韓国政府は複雑な立場にあります。

前述のように、財界・経済会などには日韓通貨スワップ協定は“ウケる”一方で、反日感情の強い支持層には、通貨スワップの必要性には“反発”がある。つまり反日感情を持つ韓国民にとっては「日本に助けられる」ことを意味するため、スワップを支持したくないのです。よって、今回の選挙勝利は、皮肉にも新型コロナウイルスの被害により生まれたと言えるのです。一方で、落ち込んでいる韓国経済に対する処方箋として、最も合理的な日韓通貨スワップ協定についてはあまり議論されませんでした。

南北統一を掲げて反日感情は煽れるのか

そんな中で、文政権が選挙の公約で大きく掲げていたのが対北和解(南北統一論)です。これはなぜか。

その背景には、深刻な韓国の人口問題があります。現在の韓国は、日本以上の少子高齢化が深刻化する可能性があるのです。韓国統計庁のデータによれば、早ければ2019年の5165万人をピークに韓国の総人口は減少に転じる見通しです。

南北統一は、北朝鮮にとっては所得水準が高まり、韓国にとっては新しい市場の開拓の可能性があることを意味します。閉塞感が強まる中で、韓国経済が勢いを取り戻すための秘策なのです。反日感情を高める“支持者”を満足させるという意味では、南北統一論は日韓通貨スワップ協定に代わるいい経済対策だったのです。

ただ、前述したとおり、文政権は日韓スワップ協定を結びたいのが本音と考えられ、財界の望みでもあります。文政権は日韓スワップ協定締結を検討する姿勢を見せて財界の支持を保ちつつ、反日感情を高める市民から一定の支持を集めるべく、南北統一論を持ち出したのです。