熱狂的な“サポーター”が支えてくれた
ディスラプションは、必ず抵抗勢力からの圧力を受け、敵を作り出します。現状(維持)を破壊し、それまでの既得権を壊す局面が生まれるからです。変革をドライブするときに、必ずつぶそうとする力が作用し、反発を受けます。勝ち目のない戦いだったりするのですが、それを支えるのは熱狂的なサポーターなのです。
アップルの場合はデベロッパであり、ユーザでした。特にメインストリームのプレイヤーでないディスラプターが成功するには、数は少ないとしてもロイヤルなサポーターの支えがあって、その力を融合することは絶対条件と言えます。Think differentは、目の輝きを失って「負け犬」と化していた人たち(アップル自身を含め)への、投石器を構える力を取り戻して立ち上がるように促すエールでした。
チームの原動力はオブセッション
ディスラプションの海を分けて進んだスティーブは、職場で激情に駆られることが時々ありました。彼のリーダーシップには皆が全幅の信頼を置いてはいましたが、信頼と愛着は必ずしも共存しないのが、スティーブと仕事をした人たちに共通した認識でした。
実際、私にもスティーブや彼のチームとはもうやっていけないと感じることが何度かありました。でも結局は、私を含めた誰もが彼の一途な熱情にほだされて、世界を変えられるのは彼しかいないことを悟るのです。セッティングしたメディア取材をドタキャンしたり、何の説明もせずプレゼンを途中でやめさせたりと、その瞬間は理不尽に思える一連の出来事は、大局を見ると実に合理的で、人類を前進させることにつながる重要なステップの一つ一つであると思えるようになるから本当に不思議です。
1つ確かなのは、メンツを気にしたり保身に走ったりする人間というのは人を裏切りますが、スティーブにはそれはありませんでした。彼が厳しい姿勢を見せるのはすべて、最高のものを作りたいというオブセッションがなせる業なのです。
マーケティングを担ったWWマーコムチームのメンバーや広告代理店のスタッフも同じでした。仕事で衝突することはありましたが、欺いたり裏切ったりするような人間はいませんでした。同じオブセッションを抱くようになると、これほど強力なチームはほかにはありません。
広告代理店側からスティーブのチームに参画して、長年スティーブと一緒に仕事をしたケン・シーガルも、けっこうひどい言葉を浴びせられ、何度か心が折れそうな経験をしました。しかし、ケンは何度も提案を足蹴にされながらも、最終的にはスティーブの承認をとりつけました。それは、ケンの人を包み込むおだやかな性格もありますが、自分の心の整理が上手にできる柔軟な思考を培い、自分の領域で最高のものを作るというクリエイティブのプロとしてのコミットメントとオブセッションがあったからにほかなりません。