「アンダードッグ」の周りには応援者がいる

アンダードッグのもう1つの特徴は、その隠れた強さに着目し、その才能を信じて応援する人たちが周りにいること。これがこの言葉を耳にしたときに、私が感じ取った意味合いでした。

苦境に喘ぐアップルをメディアが激しく責める状況であっても、地道に開発を続けるデベロッパや、製品やテクノロジーを使い続けるユーザグループの人たちと接するときに、栄誉あるタイトルではありませんが、アンダードッグという呼び名が頭に浮かび、希望をつないでくれていました。そしてスティーブ・ジョブズが戻ってきて、アップルが勢いを取り戻す兆しが見えたときに、このイメージが自分の中で鮮明に確認できたことを今でも覚えています。

ディスラプターが巨人を倒す

欧米では、アンダードッグの例として、旧約聖書に登場するダビデを引き合いに出すことが多いようです。聖書には馴染みはなくても、ミケランジェロのダビデ像は美術の教科書などで見た人も多いことでしょう。

河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)
河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)

ペリシテ軍と戦い、劣勢のイスラエル軍にあって羊飼いの少年ダビデは、身の丈が3メートルもあるペリシテ軍の最強の軍人ゴリアテと一騎打ちすることになります。サウル王が自分の鎧と剣をつけるようダビデに促すのですが、ダビデは慣れていないからと辞退。羊飼いが狼を追い払ったり撃退したりするために使う布製の投石器と川で拾った石で戦いを挑み、一発でゴリアテを倒します。

業界の巨人が立ちはだかる状況で、アップルが劣勢からなかなか脱することができないのをやきもきしながら見ていたデベロッパやユーザは、スティーブが戻ってきたとき、アンダードッグが石を投げるときが来たと熱狂的に迎えました。一方で、本当にアップルが戦えるのかと、同じ軍勢にいながら不安を抱える(最初の私のような)人間もいたし、アップルが息を吹き返すというのは想像だにできないという客観的で合理的な見方もありました。

今になって当時の状況を振り返ると、アップルをアンダードッグと呼ぶのは当を得ていたと思います。このアンダードッグの要素は、ディスラプターに重要な資質となると常々思うのです。