6年間で3000万円前後の学費を払いながら歯科医師になれないような私学は、学生集めに苦渋する。せめて“見せかけの合格率”を底上げしたいと、あの手この手の努力が行われる。

国試で注目すべきは、出願者数と受験者数の差である。6年生になれた学生に対して、卒業試験でふるいにかけて受験者を絞ることは、「合格率(合格者÷受験者)」を高く見せようとする私学の常套手段で、受験者は出願者の半数という大学もある。国家試験の日に卒業試験を行い、卒業はさせるが受験させないという荒業もある。それどころか、国試出願の直前に留年を確定させ出願者と受験者の数を揃えようとする大学も。

出願のみで受験しない学生数は合格率に入っていない

こうして、卒業しながら何年も国試に合格できない人、10代で入学しながら留年や休学の末に三十路になっても卒業できない人さえいる。留年などで“滞留”する学生が多ければ、入学定員を多少削減しても在籍学生数は増加する。進級時に3割以上が留年する大学もあり“留年商法”と揶揄される実態だ。

定員割れを止めるなら起死回生の秘策

国試の結果に戻ると、近年健闘している大学の1つに、岩手医科大学がある。20年の新卒合格率は97.1%(35人受験して34人合格)。21人の未受験者はいるものの、ここ数年、合格率、6年ストレート合格率とも上昇傾向にある。同大は11年から米国ハーバード大学と提携して歯学部の教育改革に乗り出している。

さらに一学年の学生数が50人台と、29大学中突出して少なく、関係者は「全体に目配りができていることが奏功しているのではないか」と見る。同大歯学部の定員が少ないのは、1つには定員割れを防ぐ目的もあるが、別の事情もある。医師不足に鑑み、歯学部を減員する代わりに医学部を増員する「歯学部振替枠」を利用しているため、大学の台所事情には大きな影響はないと見られている。