その国債は政府短期証券(満期60日程度の資金繰り債)が19.2兆円、残りもほとんどが短期国債である。マーケットの動きで値段が大きく上下する長期国債は「成長通貨の供給」(※)と言って回収する必要のないお金を供給するときだけ、ごく少額買っていた。
※経済が成長していくとそれに見合ったお金を供給する必要がある。そうしないとお金が不足し、お金の価値が上がってしまう(=デフレ)。
お分かりのように、市場いかんで値段が大きく上下するような資産は保有していなかったのだ。日本銀行金融研究所が本に書いただけでなく、実際に資産の健全性に充分、注意していたということ。マーケットが激変しても日銀が債務超過になる可能性はほぼゼロだった。
政府の借金を、日銀が肩代わりしている現状
日銀は2013年4月、デフレ脱却という大義名分のもと、異次元緩和を開始した。先述した日銀の「財務の健全性」原則の大破りを始めたのだ。正式には「異次元の量的質的緩和」という。量の拡大自身も大問題なのだが、質の面も大きな問題なのだ。
質的緩和の一番の問題は長期国債の爆買いを始めたこと。先に述べたように、私が金融マン(2000年3月まで)だった頃は、マーケットの動きで値段が大きく上下する長期国債などほとんど買っていなかった。このような商品の保有は資産の健全性に大きく反するからだ。
1%の金利上昇で短期国債の価格は少ししか下がらないが、長期国債は大きく下げる。影響が長期に及ぶ。そのように値が大きくぶれる長期国債の爆買いぶりがすさまじい。平成29年度、国は国債を141.3兆円発行し、日銀は市中から96.21兆円も購入している。
その大部分が長期債だ。市場規模の68%もの国債を購入している。その結果、保有額は急速に拡大し、今では国債発行残高の46%をも日銀が保有している。かつて国債は、銀行や保険会社を通じて、国民の預金や生命保険料で購入されていたと言えるが、今では日銀が紙幣を刷って(正確には日銀当座預金を増やして)購入しているのだ。
累積赤字増への警告は鳴らず、財政規律は崩壊している
どんな市場でさえ、それまで存在していなかった買い手が突然現れ、市場規模の7割も買い上がれば値段は暴騰(=長期国債では金利急低下)する。
市場経済下では、財政赤字が積み上がれば国債の供給過多で長期金利が上昇し、累積赤字増加に警戒警報を鳴らすのだが、市場原理の働かない日銀の出現で、いくら国債を増発しても値段が下落(長期金利は上昇)しなくなった。