会話のキャッチボールにはならない

例えば、英語で何かを話しかけられたとしよう。英語を聞き取れたとしても、その意味を日本語で理解して、返す言葉を日本語で考えて、それをまた英語に置き換えて話す……というような作業を脳内でいちいちやっていては、会話のキャッチボールにはならないのだ。「英語を英語のまま理解して、返事も英語で組み立てられるようになることが大事」と松本氏は解説する。

冒頭のRさんも、「知っている英語と話せる英語は違う」と話す。

「語彙力などは、自分で言うのも何ですが日本人の中ではトップレベルの知識があると思います。一方で『話せる英語』は日本人でも下から数えたほうが早いだろうという自覚がある。英語で話してみろと言われると、どう話せばいいのか、どの単語を組み合わせればいいのか、出てこないんです」

このRさんの悩みをクリアするためには、発信型のトレーニングを繰り返すしかない、ということだ。

さらに、「英語を話せない人には2パターンある」と松本氏は続ける。

「1つは、話す練習や経験が不足している人。もう1つは、英語で語れることのストックが少ない人。英語力があっても、語れることがないと話せません。アウトプットを想定し、会話の前提となる情報を英語でインプットし、繰り返し発話する練習が必要です」

例えば、英語で話をする前にお互い同じ英文ニュースを読んで、それに対する意見をまとめたうえで会話をスタートする、といったことがおすすめだ。

「英会話を練習する相手がいないときは、ネットに出ている英字新聞の記事を読んで、その内容を自分なりに言い換えてみるとか、架空の会話を作って呟いてみたりする。オンラインの英会話サービスを活用するのも手でしょう。アウトプットの練習をするときは必ずしも相手は英語母語話者でなくても構わない。とにかく英語でやり取りをすること。つまり、『読んで話す』『聞いて書く』といった複数の技能を統合した訓練が効果的なのです」(松本氏)

松本氏は英語の勉強法として「PICサイクルR」を提唱している。PはPractice(個人学習)、IはInteraction(対話的学習)、CはCommunication(実践)だ。

「まずは1人でもできるリーディングやリスニング、音読などを通して基礎的な英語力を身に付けて、次に相手を見つけて英語で情報や意見を交換するトレーニングを積む。そのうえで、実践の場で英語を使う。これを繰り返していくしかないと思います」

松本 茂(まつもと・しげる)
立教大学経営学部国際経営学科教授
同学科バイリンガル・ビジネスリーダー・プログラム(BBL)主査。マサチューセッツ大学ディベートコーチ、東海大学教授などを経て、2014年より立教大学グローバル教育センター長も兼務。
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