ユーザーの「楽しい」「心地よい」にこだわる

アップルが、こうした徹底した垂直統合によって実現したのは、収益力の高さだけではありません。競合他社の追随を許さない、極めて高いレベルの「ユーザー・エクスペリエンス」の提供にもアップルは成功しているのです。

ユーザー・エクスペリエンスとは、「製品やサービスの利用によって得られるユーザー体験」のことです。企業のマーケティング戦略において、非常に重要な要素になっています。成熟化した消費社会では、単に製品やサービスが“良い”だけでは、もはやユーザーに「価値がある」と思ってもらえません。ユーザーに「価値がある」と認識してもらうには、製品やサービスを利用することによって、「楽しい」「心地よい」といったポジティブな体験を提供する必要がある――。こうした考え方が、マーケティングで重視されているのです。

アップルは、ユーザー・エクスペリエンスに一貫してこだわり続けてきた企業です。App Storeや音楽配信サービスなどのサービス事業も、本質的には、「楽しい」「心地よい」あるいは「使いやすい」「簡単」といったユーザー・エクスペリエンスにこだわることが目的と言えます。

ブランディングにおけるジョブズの大いなる役割

スマートフォンやパソコン、タブレット端末など、アップル製品のほとんどが、競合他社と比べると高価格帯です。競合製品の低価格化が進む中、それでもアップル製品がモデルチェンジをするたびに世界中で売れているのは、製品そのものがブランド化しているからです。価格設定が高めの商品群は、「プレミアムブランド」や「ハイエンド」と呼ばれたりしますが、アップル製品のようなプレミアムブランドを創出することにも、品質管理がしやすい垂直統合モデルが向いています。

GAFAの他の企業と違って、アップルに明確なミッションやビジョンは存在しません。それにも関わらず、アップルは確固とした企業イメージを確立し、自社製品をブランド化することに成功しています。

企業のブランディングにおいてもっとも重要なのは、「経営者や創業者などの個人が発するメッセージ」です。いわゆる「セルフブランディング」です。経営者のこだわりや思い入れが会社全体に浸透し、製品やサービスに結実していることが、強いブランドの確立につながるのです。この点において、アップルは、創業経営者だった故スティーブ・ジョブズ氏が果たした役割は、比類ないほど大きなものでした。