高収益体質の秘密は、「垂直統合」型のビジネスモデル
いったい、アップルのこれほどまでの高収益の秘密は、どこにあるのか。それは、ズバリ「垂直統合」型のビジネスモデルにあります。
垂直統合とは、おもに製造業の事業構造に関する経営手法です。あるメーカーが製品を生産する際、必要な工程はすべて自社でまかなうというもので、具体的には、研究開発から、製品の企画・設計、試作を経て、量産に至るまでの一連の工程を自社あるいはグループ企業で行なってしまうビジネスモデルです。生産工程で生じる中間コストが大幅に削減できる点がそのメリットです。逆にデメリットとしては、生産に必要な工場や設備、人員を自社でまかなう場合に費用がかかってしまうことです。
アップルは、企業として自らiPhoneの製造に携わっているわけではありませんが、すべての生産工程を自社の管理下に置いているという点で、垂直統合“型”と呼べるのです。
垂直統合モデルと対照的に語られるのが「水平分業」型モデルです。水平分業型モデルでは、生産工程のさまざまな段階で行われる作業を積極的に外部の企業に発注します。その最大のメリットは、固定費を小さくできる点です。一般的に、製品の企画や開発は自社で行ない、生産は外部の工場や設備に委託するため、特に初期費用を抑えることができます。すでに必要な材料や部品を大量生産している企業に委託すれば、自社で生産するよりもかなり安上がりになります。デメリットとしては、安定的な製品供給が受けられない可能性があることや、製品の品質を維持する難しさなどがあります。
iPhoneの「CPU」まで自社開発する徹底ぶり
実は、アップルは、iPhoneが世界中で売れ出した当初は、自社で製造をしない水平分業型で成功した企業とみられていました。2007年から販売がスタートしたiPhoneは、基本ソフトである「iOS」と一部のソフトはアップルの自社開発であり、また、すべての製品の部品を外部から調達し、その組み立ても別の外部の工場に委託していたからです。ところが、アップルの生産工程をよく見てみると、垂直統合型に上手く水平分業型を組み合わせた新しいモデルであることがわかってきました。iPhoneの生産工程では、部品の調達や製品の組み立ては外部に委託しているものの、品質については厳格に管理しているのです。アップルの管理は、単なる品質チェックに留まりません。部品製造や組み立てに必要な最新の切削加工機やレーザー加工機といった工作機械などは、アップルが自社で開発して委託先に貸し出すという徹底ぶりなのです。
なお、アップルの研究開発費は、毎年巨額に上ります。2019年9月期は162億ドル(1兆7,820億円)でした。これは、ソニーの5000億円、トヨタ自動車の1兆1000億円を大きく上回っています。アップルは、ソフトウェアだけでなく、工作機械などのハードウェアに関しても積極的に研究開発費を投じているため、これほどの金額になっているのです。
このように、アップルが単純な水平分業型を採っていないことが明らかになるとともに、逆に、「アップルは、もっとも垂直統合が進んでいる企業である」という見方が有力になりました。基本ソフトと製品のデザインを自社で開発し、その製品化に必要な機械や設備を外部に貸し出して製造してもらい、販売も自社の「アップルストア」で行なう。しかも、スマートフォンの心臓部である「CPU」(中央演算処理装置)まで自社開発をしています。日本のパソコンメーカーが、マイクロソフトが開発した基本ソフトで動くパソコンをつくって、家電量販店に販売してもらうという構図と比較すると、垂直統合の“度合い”の差は一目瞭然でしょう。