“偏執的”なデザインへのこだわりが生んだ必然
印象的だったのは、1997年に公開されたアップルのCMで流れた「Think different.」というメッセージです。「違う視点で考える」といった意味ですが、ジョブズ氏はアップル製品を通じて、「ユーザーが独自の視点を持ち、自分らしく生きることを支援したい」と考えていたのではないでしょうか。その後も、「あなたらしく生きる」「再定義する」「革命を起こす」などのメッセージを広告で次々に打ち出していきます。これらの広告がアップルの企業イメージをつくり上げ、製品のブランド化に寄与していることはいうまでもありません。
アップル製品は、デザインの魅力でも多くのユーザーを獲得しています。ジョブズ氏のデザインへのこだわりは“偏執的”といえるほどでした。外からはまったく見えない、内蔵されている回路基板のチップにも整然とすることを求めたといわれています。先進的な機能を美しいデザインにいかに凝縮するかにこだわり続けたジョブズ氏にとって、水平分業を効果的に取り入れた垂直統合という新しいモデルは、戦略上の選択というよりも同社のこだわりが生んだ必然だったのかもしれません。
アップルの総力をあげた新型コロナウイルス対策
以上、アップルの特徴や強さの秘密について考察してきました。
ここで、最初の質問に戻りたいと思います。「アップルはどんな会社なのか?」。わかりやすい言葉でいえば、アップルは、一貫して「ものづくりの会社」です。ただし重要なのは、一般的なメーカーとは異なって、独特のデザインやブランディング、ユーザー・エクスペリエンスに徹底的にこだわった、そして新しい垂直統合モデルの「ものづくりの会社」であるということです。
今回、アップルは、新型コロナウイルス対策の一環として、週100万個のペースでアップルが設計、開発、製造、そして出荷するフェイスシールドを世界へ供給していくことを明らかにしました。設計や出荷はアップルとサプライチェーンが担い、資材調達と製造は米国と中国で行われます。アップルの設計部門、エンジニア部門、出荷部門などに加えて、取引事業者やサプライチェーンをも含めた、まさに「ものづくり会社」としてのアップルの総力を挙げた取り組みです。新型コロナウイルスの感染拡大に対して、アップルがこれまで培ってきた強みがいかに発揮されるのか。今後もアップルから目が離せません。