売り物のようにさらけ出された記憶とエピソード
ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳『掃除婦のための手引き書』(講談社)。心を打つ稀な小説だった。作品を翻訳された岸本佐知子さんは本の帯文で、ルシアの文章を「魂から直接つかみとってきたような言葉」と表現している。
鉱山技師の娘、3回の結婚と離婚、4人の息子を育てたシングルマザー、高校教師、掃除婦、看護師、アルコール依存症。ルシアがたどってきた経歴を並べてみても、まるで青空市場のスイカにぶっきらぼうに付けられた値札のように聞こえてしまう。そうしたラベルは、本の中の彼女の繊細で頑固な魂の外周をただなぞるだけ。
かつて「帝国」の鉱山技師としてラテンアメリカの鉱山地を股にかけた父が、正気を失っては時折取り戻す様子を看取る娘。歳月が自らの心身に留めた痕を傍観しながら、コインランドリーの待ち時間に人生を凝縮させる中年の女。貧者に施しをする革命家かぶれの女教師を蔑みつつ付いていく若い娘。リハビリ施設から戻り、愛する息子たちが寝たあとにアルコールに手を伸ばそうとする母。宝石をおいたまま、ゴマを一瓶盗んでいく掃除婦。
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