郊外への転居と、都市部への人口集中が加速

IT化の進展で商品の根源的な価値が変化するという現象は自動車にとどまらない。クルマでの移動に本質的な変化が起こるのだとすると、場所の価値も激変する可能性がある。具体的には不動産である。

先ほどの調査では、回答者の約半数が自動運転が普及した場合、「転居もいとわない」と回答しているのだが、これについてはさまざまな解釈が可能だ。自分で運転する必要がなければ、移動中の時間は読書や睡眠、仕事などに使えるので、一定割合の人が郊外の広い家に転居したいと考えるだろう。実際、この調査では回答者の34%が、郊外への転居を検討するとしている。

一方で、都市部への人口集中が加速する可能性もある。都市部の住居における最大のウィークポイントが駐車場であることは論を待たない。短時間の移動であっても、プライベートな空間を確保したい人にとっては、地下鉄などの公共交通機関は使いたくない。

今のところ、タクシーやライドシェアがその解決策ということになるが、自動運転のクルマをサービスとして使えるのであれば、大半の問題は解決することになる。クルマについて気にする必要がないので、より利便性の高い都市部の住居を選択する人もいるはずだ。

富を得る人と失う人がくっきり分かれる

不動産という観点では、自動運転車がメインということになると、住宅やオフィスの設計にも影響が出てくる。これまでは駐車場の確保が物件の価値に大きな影響を与えていたが、新しい時代には、シェアード・カーの利用や自動運転車の取り回しが容易なエントランスなど、重視すべき点が変わる。すでに立体駐車場の一部は、利用者の減少から維持が難しくなっており、ビジネスに現実的な影響が出はじめている。

歴史を振り返ると、こうした大きなイノベーションが発生するたびに、物事に対する価値基準は変化し、それによって富を得る人と失う人がくっきり分かれるという出来事が繰り返されてきた。

1800年代、蒸気機関の発明によって船の動力は風から蒸気へとシフトしたが、当初は蒸気機関が完璧ではなく、帆船の方が優位な時代がしばらく続いた。だが、蒸気船の技術が一定のしきい値を超えた瞬間からあっという間に蒸気船へのシフトがはじまり、帆船はたちまち淘汰されてしまった。しかも、同じ船を製造するメーカーであるにもかかわらず、帆船をメインとしていた企業は蒸気船への切り替えができず、ほぼすべてが消滅してしまった。