その次は80年代です。戦後、奇跡的な復活を果たした日本は、高度成長を経て経済で世界を席巻しました。ハーバード大教授のエズラ・ヴォーゲルは、その現象に関心を持って79年に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いた。僕がハーバードにMBA留学したのはその後ですが、ハーバード名物のケーススタディは、トヨタのカンバン方式やクオリティコントロールの方法など、日本の事例がズラリと取り上げられていました。

ピークは、89年の三菱地所によるロックフェラーセンター買収と、ソニーによるコロンビア映画の買収でしょう。この2つは、アメリカの魂といえる場所や会社。当時のアメリカ人は相当に衝撃を受けていました。

そして3回目がいまです。きっかけは東日本大震災でしょうか。未曾有の津波や原発事故が起きたにもかかわらず、被災地では自然に秩序ある形で避難生活が行われ、全国から応援の人たちが駆けつけました。事故や災害時だけではありません。日本では財布を落としても返ってくることが多いし、町をぶらぶら歩いていても人との触れ合いがある。外国人からすると、日本の人々はなぜ互いに優しく絆が強いのかと、新鮮に映るようです。

日本人にとっては、ごく自然な振る舞いです。しかし、世界的に分断が起きていること、即位の礼や東京オリンピック&パラリンピックなどの行事が続くことなどから、世界の人々があらためて日本人の行動に注目し始めました。ハーバード時代の友人たちも、2015年ごろまでは日本に来なかったのに、急にここ数年、「子どもたちに見せたい」と旅行に来るようになった。まさにいまが3回目の波です。

日本が安定した根底に水戸学がある

日本が世界から注目を集めた理由は、1回目は軍事力、2回目は経済力でした。3回目のいまは、安定した社会です。では、日本の安定的な社会の源泉は何か。海外の人たちも知りたがっているこの問いに僕なりに答えるとすると、根底には水戸学があると考えています。

あまり知られていませんが、水戸学は明治維新の起承転結に深く関わっています。水戸学は、第2代水戸藩主・徳川光圀による『大日本史』編纂に端を発します。

光圀は日本の歴史を振り返り、日本の国体は天皇家によってもたらされるという考え方を明確にしました。これが、いわゆる尊王思想です。一方、江戸後期には、水戸藩の大津浜にイギリス人が上陸する事件が起きて、攘夷の機運が高まります。この2つを合わせて尊王攘夷論を説いたのが、水戸学の学者である会沢正志斎の『新論』でした。こうして尊王攘夷の思想が生まれたのが、明治維新の起です。