国土の全面封鎖でイタリア景気は腰折れ

筆者が専門的にウオッチしている欧州の場合、代表的なホットスポットは北イタリアとなる。感染者はすでに1万人を超えており、残念ながら600人以上の死者が出ている模様だ。連立与党の一翼を担う民主党のジンガレッリ党首も新型コロナウイルスに感染したようだが、幸いなことに容態は安定しており、自宅静養に努めているそうだ。

イタリア政府は3月8日、コロナウイルスの封じ込め対策として商業都市ミラノを含むロンバルディア州や世界的な観光都市ベネツィアをはじめとする14県を封鎖した。さらに10日には、封鎖の対象をイタリア全土に拡大する措置に踏み切った。イタリア経済は実質的に機能不全に陥り、景気は腰折れを余儀なくされた模様だ。

もともとイタリア経済は、北部の製造業が米中貿易摩擦にともなう世界景気の減速や自動車産業の不調を受けて低調であり、最新19年10~12月期の実質GDPが前期比0.4%減とほかのEU諸国と比べても景気停滞が顕著だった。それに今回のコロナウイルス流行による悪影響が加わり、1~3月期の成長率は記録的なマイナス成長になると予想される。

こうした状況を受けて、イタリア政府による財政拡張観測もくすぶりはじめた。今財政を拡張したところで、経済の中心である北イタリアの経済が動かなければ望ましい効果など得られないだろうが、生活費の補償なども不可欠である。欧州連合(EU)の執行部である欧州委員会も、理由が理由なだけにイタリアの財政赤字拡大を容認する方向だ。

ヒトとモノが回らなくなった経済危機

新型コロナウイルスの流行が経済に与える悪影響を2008年秋に生じた米投資銀行大手リーマンブラザーズの経営破綻にともなう世界的な金融危機となぞらえる向きもあるが、あの危機はカネが回らないことにによる現象であった。しかし今回の場合は、イタリアのケースが端的に物語るように、ヒトとモノが回らなくなった経済危機と言えよう。

そのため、金融緩和や財政拡張でカネ回りを良くしても、ヒトとモノが動かない限り経済が息を吹き返すことが見込みにくい。米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が3月に政策金利であるFFレートを0.5%も引き下げ、金融緩和を強化したものの相場が好転しなかったことは、ある意味当然だったと言える。

新型コロナウイルスのパンデミックという非常時の危機管理を行う上で、ヒトとモノの流れをある程度制限することは致し方がないことだろう。とはいえ、それで経済活動そのものがクラッシュしてしまえば元も子もない。収束の時期が見えないことは確かであるが、言い換えればコロナウイルスの存在を前提に経済を回す必要もあるのではないか。

最も重要なことは正確な情報の提供だろう。日本ではトイレットペーパーがなくなったように、ドイツではパスタがパニック買いの対象になった。緊急事態に直面した人々は、世の東西を問わず根も葉もない情報に踊らされがちである。各国政府や企業、それに報道機関は正しい情報提供に努め、そうした人々の不安心理を和らげる必要がある。