政府は心理学でいう「視野狭窄」に陥っている
今回の新型コロナの場合、高齢になるほど致死率が高く、若年者の死者がかなり少ない。
高齢者施設などに感染が広がらないような対策を採ることは以前からも行われてきたことだが、新型コロナ感染拡大を受け、それをより徹底しヌケのないような体制作りを介護の現場とともに進めるべきだろう。
現時点では、日本の致死率は他国と変わらないが、今後、感染者数そのものが増えたとしても致死率はむしろ下がる可能性が大きいのではないか。なぜなら日本は国民皆保険であり、また外来・入院ともに施設の充実度において他国より上だからだ。しっかりした医療体制が維持されるよう政府がバックアップすることが終息への道となるはずだ。
本稿で、私がもっとも声を大にして言いたいのは、今の政府やマスコミの対応は、心理学でいう「視野狭窄」に陥っているということである。つまり、「感染拡大」にばかりとらわれてしまって、ほかのことが冷静に考えられなくなっているということだ。
一斉休校ではなく、やるべきことは他にあるはずだ
新型コロナから話がそれるが、自殺やうつ病を心理学的に研究する分野に「心理学的視野狭窄」という概念がある。たとえば、一部のうつ病の人が「自分は落伍者だ」「もう今後再就職は見込めない」のような考えにとらわれ、ほかの可能性が考えられなくなる現象である。
ほかの可能性が考えられないから、自分の悲観的な観念が絶対正しいと思ってしまい、さらに悲観的になって、最終的に「死ぬしかない」とか「生きていてもいいことはない」という発想にいたってしまう。なにかのきっかけで自殺するというのは、こういう心理状態にあるときだと研究者たちは分析している。
こういう人にほかの可能性も考えられるようにしてあげるのが、現在のうつ病のカウンセリング治療のトレンドだ。
自殺の研究者によれば、いじめ自殺というのは、いじめられた子が助けを求めず、「もう逃げられない」と考えてしまうから自殺にいたってしまうという。そこで、「いじめをなくす」といった100%実現が難しい目標を掲げるより、本人がほかの可能性も考えられるような心理教育・自殺予防教育のほうが、よほど実効性があると研究者たちは言う。私もこれに同意する。
安倍政権の新型コロナウイルス対策はある種の心理学的視野狭窄に陥っている。マスコミの報道にもそれを感じる。目前の現象(感染者拡大とその防止)にエネルギーを奪われ、その他の事後の対策・準備がおろそかになっているように見える。死亡者の多い高齢者へのケアを今から手厚くする、新型コロナ感染を疑って来院した大量の患者を受け入れる体制を整える、といった対処こそ優先すべきではないか。
読者の方におかれては、「不安なとき、危機に対応するとき」ほど慌てず冷静になって、安倍政権のような視野狭窄になっていないかを自己モニタリングして、なるべく多面的に検討したうえでの言動を心掛けてほしい。