病気になった人の行動は5段階ある

対策の大前提は、「自分はもちろん感染したくないし重症者になりたくないが、それと同じくらい他人にも感染させたくないし重症者になってほしくない」、つまり「人にうつされる心配と同じくらい、人にうつす心配をしよう」と一人ひとりが寛容な気持ちのもとに行動することだ。

医療社会学という学問がある。医療に関わる問題を社会学的な視点で考察するものだと考えれば良いだろう。そこでは「病気行動」という、人がある症状を自覚したときを起点として、その後、その人が医療サービスにどのように関わっていくのかという行動過程に関する研究がある。

この過程は、①症状経験段階、②病人役割取得段階、③医療ケアへの接触段階、④依存的患者役割段階、⑤回復・リハビリ段階の5段階に分けて考える。

これらを簡単に説明しよう。まず人は症状を自覚すると、その症状が自分にとっていかなる意味を持つものかを考える(①)。

そして、それがセルフケアで済みそうか、受診すべきものかどうかを自己判断することになるが、その判断がつかない場合は、素人間で相談するなど情報収集し、受診するかどうかを決定する(②)。

医療機関を訪れ、医師から診断や治療についての説明を受けた上で、その提案に応ずるか他の選択肢を探すか判断する(③)。

医師の提案に納得して同意すれば、その医師に依存、つまり患者となって治療を受けることになるが、その後も医師と意見を異にする局面となれば、その医師―患者関係は決裂することもあり得る(④)。

回復して治療終了、あるいはリハビリや再発の有無を検査する等のフォローアップが行われる(⑤)。

新型コロナ流行のさなか、人の行動はどう変わるか

そしてこの5段階は一方通行ではなく、③から②へ、④から②へといったように、前段階に戻って別の選択のもとに行動を変えることもある。

では、今回の新型コロナウイルス感染症について、この「病気行動」を考えてみよう。それには①と②の行動について、もう少し詳しく見る必要がある。

①の行動をさらに細かく説明しよう。人はまず、体調に異変を感じる(身体的側面)と、その症状が自分にとっていかなるものであるかを識別しようと考える(認識的側面)。そしてその認識には、不安や焦り、他者からの圧力に対する圧迫感などの感情も影響を与える(感情的側面)。

抽象的なので、新型コロナを例に具体的に述べる。

もしあなたが、今朝からノドが痛くなり始め、なんとなく微熱っぽいダルさを自覚したとしよう。さて、あなたはどのような行動をとるだろうか。