初期症状への対処は状況によって変わる
先日、とある企業経営者向けセミナーで講演をした際にアンケートを採ったところ、30人ほどの出席者のうち、「すぐに医療機関に行く」と回答したのは2人のみ。「まず寝る」という人と「取りあえず市販薬を飲む」という人が、残りの半々であった。
常時はこのような選択をする人も、事情が変われば、その行動を変える可能性は十分にある。例えば、翌週に海外出張や大切なプレゼンを控えているといった場合。普段なら「まず寝る」だが、「早めに医療機関に行こう」と行動を変容させることは十分あり得るのだ。いつもの症状でも、その症状が“今の自分”にとって特別なものと認識された場合は、いつもと異なる行動をとるということだ。
新型コロナウイルスの国内感染者数が増えてきたというニュースが連日報道されている現状は、①における感情的側面に、さらに大きな影響を与えるだろう。
実際、「普段ならこんなカゼの引き始めに医者なんか行かないんですが、コロナが心配なので」という不安を理由に受診する人は少なくない。自分は不安でなくとも「上司からコロナが流行ってきているから出勤前に受診して来いって言われてしまって。私は全然つらくないのですが」と来院する人もいる。これは上司という他者からの圧力からくる圧迫感が行動に変容をもたらした例とも言えるだろう。
検査が身近になれば、医療機関に人が殺到するだろう
今後、新型コロナウイルス検査の運用が見直され、現在のような保健所が介在するシステムでなく、一般の医療機関においても比較的スムーズに検査できるようになった場合は、さらに病気行動に変容をもたらすことになる。
「検査してもらいたいのに、検査してもらえない」という報道がテレビで繰り返し放映されたことにより、多くの人の検査に対する希望と期待は極めて高くなっている。この状況で、検査がより身近になれば、無症状やごく軽症の人までも、検査を目的として医療機関に殺到することは明らかだ。
事実、2009年の新型インフルエンザ流行期には、重症者が一定数いる一方で、無症状かごく軽微な症状で検査のために受診する人が医療機関に続々詰めかけ、パニックとなったのだ。
「インフルエンザなら会社を休まないといけないのですが、カゼなら休めないので」と検査による診断を希望する人が非常に増えた。
しかし検査は万能ではない。新型コロナでも、初めは陰性だった人が後に陽性となったというケースが報じられたが、感染者がすべて陽性と判定されるわけではない。偽陰性といって、感染者にもかかわらず検査では陰性と出ることが、決して珍しくないのだ。一般的な医療機関で行われているインフルエンザの検査キットも、4割くらいは誤診されていると言われる。
つまり、よく会社が出勤のために必要としている「陰性証明書」は、非感染の証明には全くならない、ただの紙切れにすぎないのだ。