縮小する国内ビール市場と強烈な成功体験

まず、1990年代初頭のバブル崩壊後、ビール出荷量が右肩下がりの傾向となったことは大きい。さらに、少子化、高齢化、人口の減少が3つ同時に進み、内需が縮小していることもビールの消費を押し下げる大きな要因と考えられる。

この状況下、国内のビール事業を強化する発想を重視することで企業が長期の存続を目指すことは難しいだろう。環境の変化に対応し成長を実現するために、各社は成長戦略を策定し、執行している。

国内シェアトップのアサヒは、自社ブランドの競争力向上を重視しているとみられる。その背景の一つとして、同社が「スーパードライ」のヒットを実現した影響は大きいだろう。スーパードライのヒットによって、アサヒはキリンとのシェアを縮めることができた。さらに、2001年には「本生」の投入によって同社は発泡酒でもシェアを獲得し、国内ビール類市場においてトップの地位を手に入れた。

これは、同社の経営陣および組織全体に、強烈な成功体験を植えつけたはずだ。現在のアサヒの経営方針を見ても、PB商品ではなく自社の名称を冠した商品(ビールなど)を生産し、それを消費者に提供することにこだわっている。また、アサヒは世界のビール市場における競争力を高めるために、海外の有力ブランドの取り込みにも力を入れている。

キリンの医療事業は売上全体の約16%

一方、キリンは自社ブランドに加え、小売企業が手がけるPB商品への対応を強化した。それに加えキリンは米国でクラフトビール大手を買収するなど、高付加価値型の商品から低価格帯の量販品まで、幅広いブランドをそろえている。キリンは“間口”を広げ、より多くの消費者を取り込むことを目指しているといってもよいだろう。

同時に、キリンはビジネスモデルの再構築にも取り組んでいる。同社は、ビール事業への依存度を低下させることを目指し、医療など新しい事業の育成を進めて付加価値の源泉を増やそうとしてきた。すでにキリンの医療事業は売上全体の約16%を占めるまでに成長した。

その中でも注目したいのがアサヒの経営だ。同社トップは、ビール類を軸とした飲料メーカーとしての生き残りを目指し、必死に改革を進めようとしている。

その1つとして、2020年からアサヒが販売数量の公表を止め、カテゴリー別の売上を金額ベースで公表しはじめたことを考えてみたい。その決定には、より効率的な経営を実現したいという経営陣の強い思いが込められているように感じる。なお、データの公表取りやめをめぐって、さまざまな意見が市場関係者などから出ている。ある意味、経営陣は批判覚悟で組織改革を進めようとしているといってもよいだろう。