ATPツアーの公式サイトによると、テニスの錦織圭選手はフルセットになった場合、2019年1月までの勝率は歴代1位の76.2%を誇り、自他ともに競り合いに強い選手と評価されています。「競り合いになると勝つ」という確信は、23.8%の負けの数値を凌駕して、自信となります。つまり人間は過去の経験をどうとらえるかによって、「どうせ負ける」と思うのか、「自分なら勝てる」と思うのかが決まってしまうというわけです。

それでは、どうすれば失敗や敗北などのネガティブな出来事を肯定的にとらえられるようになるのでしょうか。大切なのは、ミスや負けを「自分が強くなるための参考資料」「勝利のための糧」として考えることです。

スキージャンプ
時事通信=写真

私は長野オリンピックで、ノルディック複合の選手をサポートしました。オリンピックでは本番前に「試技」といって、本番と同じ条件で何回かジャンプを飛ぶことができます。しかし試技でミスをすると、それを引きずって、本番で実力を発揮できない選手も少なくありません。そこで試技がどんな意味を持つのか、選手と話しました。

試技でうまくいき、本番でもうまくいけばOK。あるいは、試技はまずまずでも、本番でうまくいけばまったくかまわない。あるいは試技で失敗しても、本番でさえうまくいけば何も問題はないのです。つまり、試技はあくまでも、本番で最高のパフォーマンスをするための資料にすぎない。試技でよくないところが見つかれば、修正すればいいだけのこと。意識をこのように変えていったところ、選手は本番で非常に安定したジャンプを飛べるようになりました。「負けも失敗も含めて、自分に起こることのすべてを自分の糧にするのだ」という気持ちを忘れずにいれば、勝つ確率は高くなります。

本番前の練習で失敗した選手に伝えるイメージ

トップの選手は敗因を流暢に語る

負けてしまったときこそ、その事実に向き合うことはとても重要です。日本では負けた選手にマイクを向けることはあまりありません。しかし、海外のトップアスリートは、自らの敗因を積極的に分析し、それを流暢に語ります。そうすることで戦いを客観的に振り返り、負けによる精神的動揺に区切りをつけ、自分のコメントから次の勝利へのヒントをつかもうとするのです。

負けに至らなかったミスも、分析する必要があります。ミスには2つの種類があります。1つは判断のミス。もう1つは行動のミス。この2つを理解したうえで、「自分のミスの延長線上に未来はあるのか」を見極めないといけません。