親が子どもを虐待し死傷させる事件が、連日のように報道される世の中である。自らの子ども虐待を「しつけ」「愛のムチ」と称して開き直る親もいる。
「しつけで虐待を正当化するな。親失格だ」と腹を立てるのはいいが、その一方で、いくら注意しても、なかなか言うことを聞かないわが子が目にあまって、思わず手をあげたくなる場面も、人の親なら決して少なくない。
はたして、しつけと虐待の境界線は、どこにあるのだろうか。
「そもそも、親の体罰を認めるかどうかの点で議論がある」と説明するのは、くれたけ法律事務所の池田清貴弁護士である。
「もし、子どもを殴るなどの体罰を一切認めない立場に立てば、しつけと虐待の間に連続性がなくなり、両者の線引きの問題は生じない。ただ、親には現行法上『懲戒権』があるため、懲戒の内容として体罰を含むとすれば、どこまでが合法な懲戒で、どこからが違法な虐待か、線引きが難しくなる」(池田弁護士)
民法822条一項は「親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる」として、親の懲戒権を定めている。
「懲戒場」とは穏やかではないが、これに相当する施設は国内に存在しないため、後半部分は事実上、死文化している。しかし前半にある「懲戒」は現在も意味を持つ。これは、子どもの非行や誤りをただすために、その身体や精神に苦痛を加える私的制裁であると定義される。すなわち、子どもに対する親の体罰は、法律上「懲戒権の行使」という形で認められているのである。
具体的には、殴る・つねる・しばる・蔵に入れるなどの手段を用いて「必要な範囲内」で行わなければならないとされている。また、児童虐待防止法の14条1項でも「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、その適切な行使に配慮しなければならない」としている。懲戒が児童虐待へと繋がらないよう、念のため釘を刺している格好だ。