肘と肘が当たる距離で働いていた乗員

乗員1000人は肘と肘とが当たる距離での仕事を強いられ、食堂のビュッフェで一同に介して食事をとっていた。検疫は乗客向けだったわけだが、乗員は客室に食べ物を提供し続けていた。これが「ダイヤモンド・プリンセス」で行われたずさん過ぎる検疫の実態だった。

「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客には届かなかった差し入れの崎陽軒シウマイ弁当4000食の写真を撮影してソーシャルメディアにアップして日本でも一躍有名になった英国人乗客デービッド・アベルさん夫妻は検疫官に英語が全く通じず「陽性」か「陰性」か振り回された。

結局、3人目の医師がしっかりとした英語を話せて、陽性であることが確定、病院の空きが出るまでホステルで待機することが分かったという。アベルさんの息子は英BBC放送に出演し、両親の状態を心配していた。アベルさんがショックのあまり吐いていたからだ。アベルさんは「完全なミスコミュニケーションだ」と怒りを通り越してあきれ果てている。

かつて7つの海を支配した英国ではコレラが大流行した19世紀に首席医務官を設け、公衆衛生の土台とワクチンの予防接種システムを構築した。これに対して日本では「科学」が「政治」と「官僚」に埋もれてしまっている。

英国は科学を重視して先の大戦に勝利し、日本は科学無視の精神論を振りかざして焼け野原と化した。新型コロナウイルスとの闘いはこれからが本番だ。今からでも遅くはない。科学者が先頭に立ち、官僚が支えるシステムを大至急、整えるべきだ。

「ダイヤモンド・プリンセス」集団感染の経過
1月20日、横浜を出発
1月22日、鹿児島に寄港
1月25日、香港に到着。問題の男性が下船。その後、ベトナムや台湾を巡る
1月30日、WHOが緊急事態宣言
2月1日、横浜から乗船し、香港で下船した男性の感染が判明。この男性が使ったサウナやレストランは通常通り営業
2月3日、日本の検疫官が横浜港で臨船検疫
2月5日、乗客の客室待機など感染拡大を予防する措置を徹底。10人の感染が判明
2月6日、新たに10人の感染が判明(計20人に)
2月7日、新たに41人の感染が判明(計61人に)
2月10日、感染者計161人に。菅義偉官房長官が「全員に対する検査は難しい」と説明
2月12日、感染者計174人に。検疫官も感染
2月13日、感染者計218人に。厚労省が高齢者や持病のある人から優先的に検査を実施し、陰性が確認された希望者を下船させる方針を発表
2月16日、感染者計355人に
2月17日、陰性が確認された米国人乗客約330人が帰国の途に
2月18日、感染者計542人
2月19日、検疫終了。順次下船(21日まで)。WHOは「世界中に乗客が散らばってしまうより好ましかった。しかし船内で感染者が増え続けたのは残念だった」と言及
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