2012年のロンドン五輪で、日本男子柔道は金メダルがゼロに終わった。柔道は1964年の東京大会で初めて組み込まれ、11度目の参加で初めての屈辱だった。「柔よく剛を制す」が本家の理想だが、パワー負けは顕著で剛に屈したことになる。危機感を覚えた柔道全日本男子代表チームの井上康生監督は、日本体育大学准教授のボディビルダーで、「バズーカ」の異名を持つ岡田隆に体力強化の大任を託した。お家芸の復活を支えた体づくりの達人に、その極意を聞いた。
筋トレで躍進した日本柔道勢
岡田は、柔道全日本男子代表チームの体力強化部門長に着任したころの記憶を淀みなく辿り始めた。
「当時は筋トレでビッグ3といわれるベンチプレス、スクワット、デッドリフトの正しいフォームも浸透していなくて、柔道そのものの練習以外は走っておけばいいという認識でした。食事面も同様で、体づくりについては本当に基本的なことから説明することになりました」
まず岡田は、ロンドン五輪翌年に開催された世界柔道選手権で道着を脱いだ外国人選手たちの写真を片っ端から撮りまくり、日本代表チームの選手たちに見せた。元来日本の選手たちは技術水準が高く、それを過信している傾向があった。しかし一目瞭然の彼我の差が危機感を煽った。