「リオ五輪を検証し、体力面では問題がなかった。次はその上の肉体を目指すとともに、メンタルを鍛える必要性も感じました。さすがに五輪の舞台では、金メダルを有力視された選手たちに緊張が見られて力を出し切れなかった。あの異常な状況でも勝つには普通のことをやっていてもダメ。突き抜けなければいけないと考えたんです」
筋力は増した。そこで今度は、その筋力に頼るのではなく、武装した体をしなやかに使いこなすことがテーマになった。
「筋トレを例にとれば、同じ重量でも、いかにスピーディーに正確に挙げるかを求めました。一方で代表チームとしては、茶道、座禅、ヨガなど“静の世界”で自分と向き合い、自衛隊の訓練を導入するなど様々な試みを実践してきました」
ロンドン五輪からリオ五輪までの4年間で、日本柔道は体づくりに焦点を絞り復活した。だがそれは必ずしも誰にでも当てはまる成功の方程式ではない。
「阿部一二三(66キロ級世界選手権連覇)は日体大入学時から見ていますが、良い食事と睡眠をとり、誰よりも激しく柔道の稽古に集中しています。それだけで海外へ出てもまったく力負けしない。まだ筋肉は成長すると思いましたが、それを早める必要はないと筋トレを重視してこなかった特殊なケース。ここまで理想的な成長をしていると思います」
岡田は、筋トレの導入には「繊細な判断が必要」と強調する。
「筋肉だけに負荷が集中するので、成長も速い分ダメージも大きい。筋肉痛がある状態で、効果的にスキルを磨けるのか、という問題があります。原沢やベイカー茉秋(リオ五輪90キロ級金)の強みは、もともと軽いクラスのときにいろんな身のこなしを覚えたことです。だから体重が増えても、軽量級並みの動きができる。やはり若いときはスキルを磨くことを優先するべきでしょうね。なるべく筋力は伸びしろとして残しておくほうがいい」
よく噛んで食べる人は太らない
トップアスリートの強化は一見別世界の出来事のように映るが、実は根の部分で一般人の健康管理に通じている。例えば効率を追求する柔道の減量には、ダイエットへのヒントが詰まっているのだ。
「柔道の代表選手たちも1週間に400~500グラム程度しか落としません。最終段階で水抜きをしますが、抜きすぎてはいけない。試合前日の計量でリミットを下回るわけですが、翌日のリバウンドは制限体重の5%まで認められています。60キロ級なら計量の後に、炭水化物、糖質などの栄養素を入れて3キロリバウンドをして強くなるわけです」