解約者数を抑えることがなぜ大事なのか

これらのような、ユーザー数が重要な経営指標であるビジネスにおいては、新規契約数のほかにもう一つ重要な指標があります。それは、既存顧客の離脱をいかに下げるか、つまり、どのように継続してそのサービスを利用し続けてもらうかです。

具体的にみてみます。例えば、一人当たりのユーザーを獲得するための広告費が30,000円として、そのユーザーから得られる利益を12,000円/年としてみます。そうすると、広告費を回収するためには、最低でも2.5年はサービスを継続してもらう必要があります。

たとえ新規契約を多く獲得できても、早々と離脱する人が多ければ、広告費のもとがとれず損失となります。従って、「新規契約数の増加」と「解約数の減少」の2つが売上を伸ばすポイントになります。

テレビCMは新規顧客開拓と離脱防止の両方に有効

それではなぜ、ユーザー数が重要指標である企業は、テレビCMを活用するのでしょうか。それは、テレビCMの強みが、「圧倒的な発信力」と「強制的に視聴させること」の2点にあるためです

テレビCMは、地域や年齢にとらわれることなく幅広い層に訴求することができます。従って、もともとは興味がなかった層のニーズ掘り起こしにも有効です。また、基本的に文字情報だけのWeb広告と異なり、動画と音声を活用した豊かな表現力を有しており、直感的に消費者に伝わりやすいという特性もあります。

一方、Web広告は、特定の単語で検索した場合に広告を表示させることができるので、興味関心がありそうな層に向けて効率的に広告配信ができます。しかし、インターネット上にある無数のウェブサイトに埋もれてしまい、テレビCMのように国民全体に広く訴求することはできないという欠点があります。加えて、リスティング広告やディスプレイ広告は、一部の動画広告を除き、15秒間の映像を流すテレビCMと比べてメッセージ性に欠けています。

また、テレビCMはWeb広告とは異なり、テレビを見ているだけで強制的に視聴させることができることも挙げられます。そのため、テレビCMは、サービスの利用率が低下し解約を検討していたユーザーの繋ぎ止めにも一役買います。

代表的な例として、ネットフリックスがあります。新作の「全裸監督」や「アイリッシュマン」の告知CMを大量出稿するのは、両作品を観たい新規のユーザーの会員化を促すだけではありません。それ以前の代表作である「ハウス・オブ・カード 野望の階段」や「ナルコス」で有料会員になった既存ユーザーに対して、新作を視聴してもらうことで退会抑制を短期間に実現させる意図のもとに行われているのです。その他、パズドラやグラブルなど、ゲームアプリがイベントごとにテレビCMを打ち、既存ユーザーの興味を改めて喚起するのも同様です。

確かに、テレビCMは、Web広告と比較して、ターゲットの絞り込みが弱く、また一部の視聴データに依存した測定能力の低さが課題として残ります。片や、Web広告は興味がありそうな層をターゲットに広告を打ちやすく、また広告効果の測定も容易です。

しかし、テレビCMは、「圧倒的な発信力」と「強制力のある視聴」というWeb広告にはないリーチ力の強さという、圧倒的なメリットがあるからこそ、新規顧客獲得と離脱防止策として活用されているのです。