国により違うアジアのレベル

アジアの医療事情は国によってさまざまです。シンガポール、タイ、マレーシアといった新興国には、外国人や国内のお金持ちを対象にしたクリニックや専門病院があります。費用は現地の人が行く病院より割高になりますが、国の物価自体が日本より安いので、法外な金額にはなりません。日本で医療傷害保険に加入している人は、たいていその補償の範囲で間に合います。

ちなみに日本の健康保険にも海外療養費制度があり、海外の医療機関で、日本国内で保険診療として認められている医療行為を受け、日本で同じ治療をしたときより多く支払った場合は、帰国後に領収書などの書類を添えて申請すれば、差額の払い戻しを受けられます。ぜひ利用してみてください。

一方、ベトナムやカンボジア、ミャンマーなどの途上国にも、日本人がすぐに診てもらえるクリニックや専門病院はあります。しかしながら、重い病気になったときの医療水準はお世辞にも高いとはいえません。一般的に、一人当たりGDPが1万ドル以下の国や地域では、日本並みの治療は期待できないと覚悟しておいたほうがいいでしょう。

もしこういうところで解離性大動脈瘤を発症したら、おそらく現地ではうまく手術ができないので、高度医療のできる隣国に飛行機やヘリコプターなどで搬送されることになります。そうなったらその分の諸費用がかかりますから、いくら医療費が安くても、総費用はアメリカ並みということにもなりかねません。途上国を訪れるなら、2000万円以上の補償が付いた海外旅行傷害保険が必要でしょう。

中国も公的医療制度があるので医療費は低めです。しかし保険適用の範囲が狭く、抗がん剤治療や心筋梗塞のステント治療などの高度医療は自費になるため、庶民はなかなか受けられないようです。外国人用のクリニックや病院では、お金さえ払えば先進国と同様の治療を受けることができるのですが、現地の通常の病院だと、医者によっては正規の医療費のほかに心づけを暗に要求してきたり、共産党員の治療が優先されたりするので注意が必要です。

一方、外国人が日本の医療機関で治療を受ける場合はどうなのでしょう。日本人なら診療報酬は一律ですが、外国人だと複雑な説明をする際には通訳を用意しなければならないなど、いろいろ手間がかかるので、その分を上乗せして通常の2倍から3倍の金額を請求しているところが多いようです。心臓の手術なら日本人なら300万円のところ、外国人だと1000万円ぐらいとなりますから、アメリカほどではないにしても、「日本の医療費は高い」と感じている外国人は多いのです。

病院が最初に金額を明示しないところも、外国人には不評です。アメリカなら、患者が意識を失っていたり、一刻を争う状況だったりしないかぎりは、医者が治療の前に見積もりを提示して、支払えるかどうか必ず確認します。国際化の時代です。余計な不信感を持たれないためにも、日本の病院も医療費の「価格表」を明示したらどうかと思います。

(構成=山口雅之)
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