2019年5月には、ひきこもり当事者たちが結成した「暴力的『ひきこもり支援』施設問題を考える会」から、メディアがそうした業者の「勧善懲悪のストーリー」に乗ることがないように、「報道ガイドライン」と「ひきこもり当事者の権利宣言」作成のための協議の場を求める要望書が、ひきこもり家族会唯一の全国組織、NPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」(以下、KHJ家族会)宛てに届いた。

さらに、川崎通り魔殺傷事件の後、「ひきこもり」絡みの報道が過熱。こうした業者が再び注目を集めて有識者としてメディアに出たり、家族の元に「3カ月でひきこもりを解決させます」などと勧誘してきたり、営業活動を活発化させているとの報告もある。そこで、同家族会では、それらの方向も受けて、悪質業者の手口を把握するために、情報収集のための「暴力的支援に関するプロジェクト」を発足させている。

親の心理につけ込む業者が野放しに

2019年6月に開かれた同家族会の全国支部長会議では、本人と親双方の被害体験者を招いて、情報共有のための報告会を行った。まず、大手企業の社員だった秋山隆幸さん(仮名)が体験談を話した。秋山さんは、「ひきこもり」ではなかったが、就職できない状態が続いた。ある日突然、一人暮らしをしていた部屋のドアが勝手に開けられた。

「福祉の職員」だと名乗る男性に鍵を開錠され、私物も持たされずに無理やり連れていかれた。その後、何とか脱走したものの、本人は「人権のない扱い」に、恐怖は消えず、今でも毎晩、連れ去られる夢を見るという。

次に、息子に暴力を振るわれた母親は、警察から「施設を探してください」と言われ、ネットで見つけた業者と契約。業者のホームページに民放局の番組が載っていたので安心したという。

「医療機関で診察もできるし、息子さんをいい方向に自立させます」と言われた。「おかしい」と気がついたのは、息子から「ここはおかしい」と連絡が来たためだ。法外な料金を取りながら、食事も粗末でジュース1つ買ってもらえない。最初の説明と違い、人を人として扱わず、対応がずさんだった。

多くの親は、練馬の元農水事務次官の事件のように追い詰められている。こうした心理につけ込んでくる業者への規制がなく、野放しになっていることに憤りを感じたという。

焦り、不安、心のすきまを狙う悪質業者

こうした公的支援に取りこぼされた人々の焦りや不安、心のすきまを狙う悪質な業者は、全国にどのくらい存在しているのか、法規制の対象外のために責任の所在も明確でなく、どこも把握できていない。このような悪質業者を利用せざるを得ない家族が増えないよう、公的支援の充実が必要なのである。

そもそも、これまで国の「ひきこもり支援」は、内閣府の「子ども・若者育成支援推進法」を法的根拠にしてきた。若者という定義上、当初の支援対象者は34歳までだったが、その後39歳に引き上げられた。