半年で800万円を請求された事例も

家族がこうした業者と安易に契約を結んでしまうと、3カ月で500万円、半年700万円~800万円という高額を請求されることもある。「自立支援」を謳いながら、支援プログラムやケアはまともに行われず、逆に本人が自立しようとする活動を妨害するなど、家族が事前に業者から受けた説明と大きく異なっているのが実態だ。

そのため、家族が契約を結んだ後、消費者トラブルになる事例も少なくない。筆者が把握しているだけでも、これらの業者などに対して、被害者や家族から5件の訴訟(うち1件は刑事告訴)が起こされている。さらに今後、複数の事例で法的措置をとる動きがあるなど、「暴力的支援」は社会問題化している。

公的な相談支援が頼りにならず、藁にもすがりたい親や家族にとっては、ほかに情報や支援メニューがないことから、こうした業者に頼らざるを得なくなるほど心が弱り、追い詰められているのも事実だ。しかし、本人のひきこもり状態の解消どころか、心を傷つける真逆の結果になりかねない。親は、違法行為に加担する加害者にもなるし、被害者にもなることを知っておく必要がある。

悪質な業者に加担するマスメディア

メディアの中には、「勧善懲悪ストーリー」の仕立てに乗せられて、“支援”と称する悪質業者を宣伝したり、「支援の専門家」として取り上げたりしているものもある。しかし、こうした悪質業者をメディアが取り上げるという行為は、支援業者の「紹介したい事例」の宣伝に加担することにもなる。

そのストーリーの裏には、メディアに売られる当事者たちがいて、新たな被害が起きかねない。「ひきこもり」報道に関して大事なことを言えば、これまでの「レガシーメディア」がよくやるように、てっとり早く記事や番組を取りまとめたいと思って表向き活動している人に貼りつけば、PRと引き換えの記事が効率よく書けるだろう。

しかし、最先端の情報は出てこない。これは長年、取材をし続けている者としての実感である。参考までに、把握している限り、一連の事件以降、ひきこもり当事者グループの中には、メディアに同じ当事者を売るような事例は1つもなかった。

川崎19人殺傷事件で活発化した「ひきこもりビジネス」

言語化すらできていない人たちの話をじっくり聞いていると、炙り出されるように社会が見えてくることがある。その中から、課題を構築していかないと本質的な取材はできないし、社会を動かすこともないだろう。メディアで「ひきこもり事例」を取り上げたいのであれば、そうやって面倒くささを積み重ねていくほうが、実はいちばんの近道なのである。