これまでも述べてきたように、法的な理由だけでなく、従来のひきこもり支援の枠組みは、あくまで「就労」がゴールとされていたため、40歳以上を支援の対象に入れても「就労につなげにくい」「事業効果が出づらい」……そんな支援者側の思惑もあったと聞いている。

たとえば、40歳未満が対象の支援として、働くことに悩みを持った若者向けの支援機関である地域若者サポートステーション(サポステ)がある。厚生労働省が委託したNPO法人や民間企業が運営し、専門のスタッフが相談に乗ったり、コミュニケーション訓練などを施したりする施設だが、支援対象者の定義が曖昧で、以前は「ひきこもり」状態の人も含まれていた。

しかし、サポステの対象年齢は従来、40歳未満だったため、40歳以上の人が窓口に行くと「あなたは支援の対象ではない」と冷遇されてハローワークを勧められるか、あるいは「精神科へ行かれたらどうですか?」などと医療機関に誘導される──というのが、これまで当事者たちから聞かされてきた実態だった。

「就労」がゴールとされる支援の矛盾

さらにサポステの相談窓口では、年齢だけではなく、相談者が就労に近そうか、遠そうか、という点においても選別されるようなところもあったという。これは、そもそもの国のつくった仕組みに問題がある。

サポステ事業は単年度契約でNPO法人や民間企業などが受託する形になっていて、次の年度に向けて契約を更新できるかどうかは、「就労率」などの「実績」が基準の1つだった。「就労率」とは、サポステ利用者の中から期限内にどれだけ就労者を生みだしたかを示したもので、運営事業者にとってはノルマのような扱いになっている。

その結果、就労率が少しでも高くなるようにと就労に近そうな人たちばかりを受け入れてきた支援機関は、スムーズに契約が更新される一方で、当事者たちとの関係性を大事にし、居場所などをつくって時間をかけた丁寧な取り組みをしてきた支援機関は更新されなくなるという、本来の支援の趣旨とは矛盾する実態になってしまった。

「就労しても、生きづらさは変わらない」

KHJ家族会の調査によると、40歳以上で10年以上ひきこもっている人の7割以上は、就労経験者だ。内閣府の40歳以上のひきこもり実態調査でも、同じような結果が公表された。

「就労してもゴールではない」「就労しても、生きづらさは変わらない」

こうした声は、筆者が「ひきこもり」状態の当事者たちとの対話を通じて、彼らから繰り返し聞いてきた言葉である。このように、過去の就労で傷つき、トラウマのような身体反応を示す「ひきこもり」状態の当事者にとっては、一旦就労しても長続きせず、すぐに辞めてしまう人も少なくない。

しかし、従来の「ひきこもり支援」は、就労系の関係機関を中心に「ひきこもりから就労してもらうには、まず社会に適応できなければいけない」といった「社会に適合させるための訓練」に重きが置かれていたのだ。

「これまでの支援は、ひきこもりじゃない一般の人が受けても、耐えられないものだったと思う」

いみじくも、あるひきこもり当事者は、そう表現した。